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は じ め に
超音波検査の利点は体内組織の形態変化を低侵襲かつリアルタイムに観察できることである.われわれは,手根管症候群(CTS)の診断と病態理解のために,外来初診時に積極的に超音波検査を行っている.
近年,超音波検査を応用し,軟部組織の「硬さ」を色で可視化し,定量的に評価する装置,エラストグラフィが開発された.すでに乳線・肝臓・膵臓・前立腺・甲状腺疾患といった診療ガイドラインでは,診断精度の向上や治療効果判定のためにエラストグラフィ検査が推奨されている.
エラストグラフィは測定原理から2種類に分けられる.対象に圧力を加え,ひずみの大きさから硬さを算出する静的エラストグラフィ(compression elastography)と,対象に微細な振動を与え,内部を剪断波が伝播する速度からYoung率を計測する,動的エラストグラフィ(shear wave elastography)がある.静的エラストグラフィはひずみ値の比として硬さを数値化し,動的エラストグラフィでは,硬さの単位であるYoung率を求めることができる.動的エラストグラフィでは,骨に囲まれた断面での正確な測定ができないため,CTSの評価を行う際は,手根管長軸像での計測に限られる.
筆者はこのエラストグラフィを用いて,CTSの病態や診断に関して,2012年からオーストリアのInnsbruck大学といくつかの共同研究を行った.そのなかで筆者は,罹患手の正中神経が硬化していることや,神経周囲の手根管内軟部組織が硬化し,ステロイド注射により硬化が改善することを発見した.本稿では,正中神経の超音波観察手順,超音波検査でみつかる異常所見,特発性CTSの超音波診断法について解説する.
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