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は じ め に
化膿性脊椎炎において,適切な抗菌薬治療を行ううえで起因菌の同定は重要である.また,適切な抗菌薬治療は,感染の再発や耐性菌の出現,治療費の削減にもつながるとされる1).起因菌の同定は重要であるが,時に同定できない症例があり,その場合は広域抗菌薬での治療や経験的抗菌薬使用となる.従来,化膿性脊椎炎において起因菌を同定する方法として,血液培養を採取する方法と,局所から検体を採取し培地で培養する組織培養がある.過去の報告によると,血液培養の陽性率40~80%2,3),組織培養の陽性率47~70%3~5)であり,いずれも確実な抗菌薬の効果を確約できるほどの検出率ではない.局所検体を採取するためには手術による開放生検が組織採取のゴールドスタンダードとされている6).しかし,近年の画像技術の進歩やMRIの普及などにより,感染巣が椎体終板や椎間板のみに限局している早期の化膿性脊椎炎が診断できるようになってきた7).感染巣が限局している場合は手術による開放生検の適応となることが少なく,CTガイド下生検や全内視鏡下脊椎手術(full-endoscopic spine surgery:FESS)によるドレナージがしばしば試みられる8,9).これらの方法は,前述の手術による検体採取に比べて患者への負担や侵襲はおさえられるが,そもそもの検体量が不十分となる場合や,採取した組織が壊死組織であったり,感染部位から検体を採取できなかったりすることが多いことなどから起因菌の検出率が低いことが指摘されている9).
化膿性脊椎炎に限らず,そのほかの領域で起因菌の検出率を向上させる手技として,血液以外の検体を血液培養ボトルで培養する方法が用いられている.これまで関節液10,11)や胸水12),腹水13),眼内炎の硝子体14),肺炎の気管支肺胞洗浄液15)など,他分野でもその有用性が報告されている.整形外科感染対策における国際コンセンサス16)においても,人工関節周囲感染症に関して,起因菌の検出率を高めるためには,採取した検体を血液培養ボトルで培養すべきであるとの提言がなされている.前述のように他分野で使用されてきている血液培養ボトルを利用した培養方法は化膿性脊椎炎においても応用可能と考えた.
当院では,従来であれば起因菌の検出が困難であったMRIで椎体終板や椎間板内に感染巣が限局し周囲に明らかな膿瘍を形成していない化膿性脊椎炎の症例において,局所の洗浄手技を行う際に生じる灌流洗浄液を血液培養ボトルで培養し,起因菌検出率の向上につなげる工夫を行っているため報告する.
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