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症例は11年前に血液透析導入となった68歳男性で、今回透析終了後腹痛が出現、強い疼痛が持続するため救急搬送され、腹部CTでは異常所見を認めず経過観察目的で入院となったが、翌日も腹痛が改善せず外科紹介となった。初診時、腹部造影CTでは下行大動脈に著明な石灰化を認め、上腸間膜動脈(SMA)起始部にも石灰化を認めたが、SMAや下腸間膜動脈、上腸間膜静脈に血栓や塞栓は認めなかった。以上の所見から腸管穿孔や腸管壊死は認めず、筋性防御を認めたことから汎発性腹膜炎を疑い、同日緊急手術となった。術中所見では回盲部より約10cm口側の回腸の漿膜が約30cmにわたり分節状に黒変しており回結腸動脈と辺縁動脈の拍動が確認できないためnonocclusive mesenteric ischemia(NOMI)と診断して小腸部分切除術を施行した。切除標本の病理組織学的所見では切除小腸の殆ど全層で壊死に陥っており、粘膜固有層から漿膜下層まで大小の空胞がみられ、高度の出血・充血・好酸球浸潤を認めた。術後翌日から透析を再開、透析中を含め循環動態は安定していたが、全身の循環血漿量の減少によりNOMIが誘発されたと考え、dry weightを1kg増加させた。術後12病日に下血を認め、下部消化管内視鏡検査ではBauhin弁に著明な腫脹を、上行結腸粘膜に潰瘍を認めたことから回盲部中心の虚血性腸炎と診断した。絶食とtranexamic acidの投与により第17病日には下血が止り、翌日より虚血性腸炎改善目的でalprostadil 10μgの静脈投与を2週間行い、術後32病日に独歩退院となった。以上より、血液透析患者の腹痛の診察に際しては、動脈硬化性病変を背景とした腸管虚血症により症状を呈することも念頭に置く必要があると考えられた。
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