特集 受精メカニズム新論争〜ドグマの再構築〜
Cell Tech Eye 自家不和合性因子とCa2+シグナル
澤田 均
1
1名古屋大学大学院理学研究科附属臨海実験所
キーワード:
受精
,
精子
,
ユウレイボヤ
,
卵
,
カルシウムシグナル伝達
,
被子植物
,
自己生殖
,
植物の自家不和合性
,
雌雄同体生物
,
卵細胞膜精子受容体
,
マボヤ
Keyword:
Ciona intestinalis
,
Fertilization
,
Ovum
,
Spermatozoa
,
Calcium Signaling
,
Magnoliopsida
,
Hermaphroditic Organisms
,
Self-Fertilization
,
Self-Incompatibility in Flowering Plants
,
Egg Surface Sperm Receptor
pp.406-408
発行日 2014年3月22日
Published Date 2014/3/22
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有性生殖は同種異個体の細胞である配偶子が相互認識して細胞融合し,遺伝子構成の多様な子孫を産生することである.しかし,多くの被子植物や一部の動物のように雌雄同体(同株)の生物にとっては,自家受精する可能性があり,有性生殖の利点を十分活かせなくなる.これを回避させる性質を“自家不和合性(selfincompatibility)”と言う.『生物学辞典』(東京化学同人)には,自家不和合性とは「正常な両性花をもつ被子植物において,同一個体内の受粉では受精が成立せず,種子の産生に他個体の受粉が必要となる性質」と記されており,元来,植物学の用語である.20万余種の被子植物のおよそ半数は自家不和合性を示すが,それは“科”のレベルで自家不和合性システムを共有している.例えば,アブラナでは,受粉の際,花粉因子SP11/SCRが雌蕊(めしべ)因子SRK(S-receptor kinase)によって自己と認識されると,雌蕊乳頭細胞でリン酸化反応が起こり,花粉の膨潤と花粉管伸長が抑制される仕組みになっている.一方,ナス科やバラ科では,受粉後に花粉管伸長が起こるが,その際,雌蕊のS-RNase が花粉管に侵入し,RNAを分解する.このとき,SLFと呼ばれるユビキチンリガーゼ(E3)が非自己由来のS-RNase をユビキチン化して,プロテアソームによる分解を促す.ケシ科では,PrpSとPrsSと呼ばれる膜貫通タンパク質の遺伝子が近接しており,個体間でも多型に富み,自己分子を認識している.また,花粉が雌蕊因子を非自己と認識すると,Ca2+濃度が上昇してカスパーゼ系を活性化させ,アポトーシスを引き起こし,自家受精が阻害される.
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