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今なぜ,心臓なのか?五臓六腑というように,心臓は数ある臓器のうちの1つにすぎない.しかし,心臓は単に体の機能を担っている臓器というよりも,洋の東西を問わず人が人としてあるために重要な心,感情といったものの担い手という捉え方をされている.英語の“broken heart”は,まさしく「失恋(壊れた心)」であり,「オズの魔法使い」に登場するブリキ男はHeart(心)を求めて旅をする.このような特別の思い入れとともに,心臓を対象とした論文は頻繁に三大誌を賑わせ,心臓発生・疾患に関する研究は日進月歩の勢いで進んでいる.一方で,最近の生物系雑誌で1つの「臓器」に着目した特集が組まれることは非常に少なく感じられる.多くの研究者にとって興味があるのは個々の細胞の動きであり,分化制御であり,それらがまとまって作り上げる臓器は一連の過程の結果であり,目的とする現象の解析に適した臓器を取り扱うため,対象とする臓器は様々となる.その中で,「心臓」は臓器をキーワードとして研究を進められる数少ない臓器である.その理由として,その機能の重要性はもとより,拍動する臓器としての魅力にあるのではなかろうか.心臓は動く臓器であるがために,生理学的手法を用いたアプローチも広く行われており,1つの臓器の成り立ちを理解するために,じつに多様な解析手法を取ることが可能であり,また実際行われてきた.そして,これら一連の研究が「動く臓器」である心臓を創り出すことに重要である.心臓は心筋をはじめとして,心臓の大部分を構成する心臓線維芽細胞,刺激伝導系,心内膜,心外膜,弁,冠血管など,様々な細胞集団・構成要素から成り立っている.再生医療においては,対象とする臓器で主要な働きを担っている細胞を分化・増殖させる系を見いだし,移植へとつなげることが目的とされる.しかし,心臓の場合,「ポンプ機能」という主要な役割を担う細胞は心筋であるが,心筋を分化させることができても,心臓として機能するためには,周囲と同調して規則正しく拍動することができなくてはならない.それでは,本当に機能する心臓を「創る」ことはできるのだろうか?
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