特集 自閉症の生物学
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内匠 透
1
1理化学研究所 脳科学総合研究センター シニアチームリーダー
pp.450-452
発行日 2015年4月22日
Published Date 2015/4/22
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1943年Leo Kanner によって見いだされた自閉症は,今,自閉スペクトラム症(autism spectrum disorder;ASD)とその疾患カテゴリー自体が広くなり,最近の米国疾病予防管理センター(CDC)のレポートでは68人に1人という驚くほどありふれた疾患になった.ASDは小児の代表的な精神疾患であるが,精神疾患自体に“スペクトラム”という考え方が導入され,ASDは広く精神疾患の1つとしてスペクトラムの一端を担うだけでなく,健常人とも連続的スペクトラムを形成していると言える(図1).しかし,ヒトゲノム計画が達成されるまでは,ASDは精神疾患の中で最も生物学からかけ離れた存在であった.統合失調症や気分障害などの代表的な精神疾患は精神行動療法などが採用されるなど,一般の疾患とは異なる面を有する一方,薬物療法も存在していたが,ASDの治療は療育のみである.我が国における大学での自閉症研究は,主に教育心理学的なものが中心で,障がい児にいかに対応していくかが中心であり,厚生労働省(現在は日本医療研究開発機構)の厚生労働科研費を見ても障がい者対応の研究費となっている.もちろん,ASDに悩む親御さんや社会にとって,これらは緊急の問題であり,なくてはならぬものではあるが,この方向性だけではいつまでたっても対処療法しかない前近代医学のままである.医学生物学分野の技術が急速に発展している今,自閉症研究を生物学の対象として捉えることができるようになった.本特集では,自閉症の生物学的研究の今を各方面から紹介する.
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