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ヒトの正常な体細胞の分裂回数には限界がある.1961年にHayflickらは,ヒトの体細胞を継代培養することでこの分裂限界の存在を発見した .この分裂限界に向かって進行する細胞の変化は“細胞老化”と呼ばれ,がん抑制や個体老化に関与しているのではないかと推察されてきた.1986年にSmithらによって,細胞老化を起こした細胞(以下,老化細胞と呼ぶ)では細胞分裂を停止させる働きのある細胞老化誘導遺伝子が高発現していることが報告されると,多くのグループが細胞老化誘導遺伝子の探索を行うようになった.DNAマイクロアレイも次世代シークエンサーもない時代であったため,細胞老化誘導遺伝子の同定にはかなりの時間を要したが,この過程で老化細胞はコラゲナーゼ(matrixmetalloproteases;MMPs),IL-1α,インターフェロンβ(IFN-β) など,様々な分泌因子を発現することで周囲の細胞に様々な影響を及ぼしている可能性があることが報告された.しかし,その当時は細胞分裂を停止させる細胞周期制御因子に注目が集まっていたため,老化細胞が呈する分泌現象に注目が集まることはなかった.一方,1990年代後半になると,継代培養だけでなく酸化的ストレス,放射線,がん遺伝子の活性化など,恒常的にDNA損傷応答(DNA damage response;DDR)を引き起こす様々なストレスによっても細胞老化と類似した不可逆的な細胞分裂停止(細胞老化様分裂停止)が起こることが明らかになってきた .2001年にCampisiらは様々なストレスによって誘導された細胞老化様分裂停止(以下,細胞老化に含める)を起こした細胞の培養液には,前がん状態やがん化した上皮系細胞の増殖を促進する分泌因子が含まれている可能性があることを報告した.また,Liuらはがん微小環境を構成する線維芽細胞が細胞老化を起こすと,ケモカインの1つであるGro-1を分泌することで近傍のがん細胞の増殖を促進している可能性があることをヌードマウスやヒトの臨床サンプルを用いた研究により明らかにした .さらに2008年になると,複数のグループから,細胞老化を起こした細胞は炎症性サイトカイン,ケモカイン,MMPs や増殖因子など,様々な分泌因子を高発現していることが報告され,この細胞老化に伴う分泌現象はSASP(senescence-associatedsecretory phenotype)と呼ばれるようになり,一気に注目を集めるようになった.
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