第2特集 “長引く咳” 診療をアップデートせよ!
知っておきたい! 咳診療の最前線
長引く咳に対する病歴聴取と身体診察による実践的アプローチ
井原 紫逸
1
,
上原 孝紀
1
1千葉大学医学部附属病院 総合診療科
pp.894-898
発行日 2025年6月1日
Published Date 2025/6/1
DOI https://doi.org/10.15104/th.2025070019
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はじめに
咳嗽は外来診療で高頻度に遭遇する愁訴の1つである.咳嗽は発症からの期間で疾患頻度が変わるため,急性:3 週未満,遷延性:3〜8 週,慢性8 週以上に分類して推論を進める.急性咳嗽ではまず,病状の進行スピード,肩呼吸・陥没呼吸などの視診や呼吸数,general appearance から重篤な病態か否かを判断する.次に世界的に猛威を振るったSARS-CoV-2や2024年に流行したマイコプラズマ肺炎など,流行状況を鑑みた事前確率の推定を行い,普通感冒をはじめとするかぜ症候群との比較推論や迅速検査を組み合わせて,喀痰塗抹検査や画像の追加などのさらなる精査や,治療的診断や対症療法などの臨床判断が重要となる.
このように急性咳嗽には一定の診断方略があるが,最終診断には感冒をはじめとする非特異的な症候を呈する病態が多く,病歴の寄与する割合は小さい.そのため,初期段階での診断の絞り込みは難しく,時間経過を用いた臨床判断の連続が最善の一手となることが多い.一方で3週以上続く遷延性咳嗽や慢性咳嗽では,胸部X線像の診断力は別途必要ではあるが,急性咳嗽よりも病歴が診断に寄与する割合が大きい.そこで本稿では,3週以上続く咳嗽を「長引く咳嗽」と定義して,解剖と病態生理に着目して解説していきたい.

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