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1.はじめに
「貧しい人々のなかに,私はイエスをみているのです」マザーテレサの言葉です.行き倒れの人や重い病気の人を看取ってきた彼女に《どうしてあなたは貧しく,汚れて,醜く,憎しみに満ちてさえいる人たちをそこまで大切に扱うのですか?》という問いに対する答えだったと記憶しています.この言葉に出会ったのはもう35年も前のことでした.当時(いまもですが)信仰心のない筆者には何のことやらさっぱりわけがわかりませんでした.しかし,なにかとても大切なことが語られているように感じられ,記憶の片隅に残り続け,わからないままに心のなかで燻り続けていました.
いまでもその本当の意味を理解するにはまだほど遠いと感じていますが,それを理解するための糸口のようなものをほんの少しだけ掴めたように思っています.その糸口は大学体育の授業のなかから見つかりました.体育教師として学生たちと向き合うなかにあったのです.特に20年ほど前から取り組んできている東洋的身体技法(呼吸法,気功,武術,ボディワーク等)を教材とする授業において,多くのことを得ることができたと感じています.少し回りくどいかも知れませんが,以下に紹介させていただきます.
「起き上がろうなんて気持ちはまったくないのに,いつの間にか相手の促しに応じて起き上がってしまった」これは<引き起こし,抱き起こし>という技法を実習したときの学生の声です.これに似た現象は他の多くの技法でも生じています.「力一杯に押さえつけているのに,転がされて笑ってしまう」「相手はウンウン言いながら真っ赤になって力を入れているのに,こちらはほとんど力を入れなくても曲げられないですんでしまう」「ただ呼吸をしているだけなのに涙が流れてきてしまう,決して悲しいわけではない」
この東洋的身体技法の実習では,ときとしてこれまでの常識では理解しにくいようなことも起こります.「思いもつかないようなこと」が現象として生じたりします.「おれの体ってこんなことするの?」と驚く学生もいます.この一見,思いもつかないようなことのなかに,ヒントが隠されていました.ここではそれを,からだを通して「感じること」と,「働きかけること」を中心に考えていくことにします.まずは学生たちがどのような体験をしたかを紹介したいと思います.
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