巻頭言
残された健康部分に働きかける
黒田 知篤
1
1医療法人中江病院
pp.254-255
発行日 1985年3月15日
Published Date 1985/3/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405203904
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精神科臨床の基礎は,治療者と被治療者の信頼関係の上に築かれているのだが,何としても患者の側だけでなしに治療者の側の成熟度に大きく関わってくる。つまり,治療者側の個人的な人間理解や人間観が陰に陽に影響する。カウンセリング面接の領域で,よく技術かアートかと論議される事柄は,精神科臨床においても,そのままあてはまる。臨床という対人的援助行為には,否応なしに役割遂行などの操作的概念だけでは整理しきれぬ個々の治療者の個人的ニュアンスが顔を出すことになる。そうして,その個人的ニュアンスを,その治療者が,如何に自分の専門的臨床行為の中でよく生かすことができているかということが,その臨床家の成熟度に関わるバロメータかも知れないと思う。
永い歴史のある精神病院で,何十年の入院歴をもつ患者のカルテは,本人の病状だけではなしに,何回か交代した治療者の側の,それぞれの患者理解の深さをも同時に記録しているわけで,平板な記号のような症状名や形容詞の羅列から,短い文章だが的確にその面接の場での被治療者のたたずまいを伝えてくれる記載まで,それぞれ臨床家としての訓練の勘所を後輩に伝えてくれるといえる。
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