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本学会のシンポジストの機会を与えて下さったことに心より感謝申し上げます.本日ご紹介させていただくものは,生涯発達理論を基盤に,私が老年看護の研究として初めて取り組んだもので,老化により日常生活の自立性が低下する高齢者が,自己と自己の人生を受容し,人格の再統合を通して,自己実現に向かって自我発達できるための看護援助の構造を検討したものです.本学術集会会長の沼本先生が,この論文を大学院教育の教材としてご活用くださっていることに感謝する一方で,この援助の構造を検証・精選する必要性を感じ,試みているものの十分でない現状で,すでに10年以上経ちます.そこで,本日は,この援助の構造と検証として試みたものをご紹介し,シンポジストの方々やフロアの皆様からご批判をいただくとともに,発達論的視点から捉えた高齢者看護の方法論を討議できることを願っております.
まず,本研究おける老年期とは,「人生終焉の時期」であり,生きてきた証としての「完熟期」でもあり,自己の人生を振り返って「総決算」し,「自我を統合する」時期としました.また高齢者とは,このような時期にある人々であり,意識ある限り死を迎えるまで,自我の統合を目指して発達し続ける人と捉えました.また自我とは,「主体としての自我」,すなわち「意識・認識の主体」である自我と,「客体としての自我」,すなわち「意識・認識の対象」である自己に分けられ,自我は自己の一部である自己概念を通して把握可能であり,自己概念とは,経験の総体に支えられている自分自身についての概念化であり,そのすべてが現実の意識として現れるわけではないが,その時々の自己意識を支え,枠づけ,行動を導くものであるとしました.したがって,人が表出するすべての行動は,意識する,しないにかかわらず,自我の現われであると捉えました.また高齢者が自我発達している状態とは,高齢者が自己の価値観や過去を拠りどころにして現実検討し,自己の可能性を見出し,それを基盤に自己の目指す生き方を自分自身で選択・決定して行動化し,生き生きとした生活を送れていることとしました.
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