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はじめに
1) 褥瘡の定義と分類
身体に加わった外力は骨と皮膚表層の間の軟部組織の血流を低下,あるいは停止させる.この状況が一定時間持続されると組織は不可逆的な阻血性障害に陥り褥瘡となる(日本褥瘡学会,2005).
分類は創の損傷の及ぶ深さによって分類されるのが一般的である.褥瘡の早期発見と早期介入の重要性が認識されてからは,皮膚の初期変化と判定方法が明確に記述されているNPUAP(National Pressure Ulcer Advisory Panel)の分類(NPUAP 1989, 1998)が使用されている.Stage Iは,圧によって起こる観察可能な皮膚変化である.これは反対側または隣接する皮膚との比較においてわかる変化であり,次のひとつ以上の症状を含む;皮膚温(温かいまたは冷たい),組織の一貫性(硬いまたは泥状),または知覚(痛み,痒み).明るい皮膚色の人においては,持続する発赤と定義されるが,暗い皮膚色の人においては,持続する発赤・青・紫の色調が現れる.Stage IIは表皮または真皮の欠損を含む部分層損傷である.潰瘍は表層であり,びらん,水疱,浅い潰瘍がある.Stage IIIは全層損傷であるが筋膜を越えない.皮下組織の損傷または壊死を含む.臨床では,ポケットがある,あるいはポケットがない深いクレーターとして存在する.Stage IVは全層損傷である.広範囲の侵襲と壊死組織,損傷が筋,骨あるいは支持組織(腱,関節腔)に及ぶ.ポケットまたはろう孔がある.
2) 褥瘡発生のリスクファクター
褥瘡のリスクファクターは,先に述べた定義に大いに関連している.つまり,身体に加わった外力が,骨と皮膚表層の間の軟部組織の血流を低下,あるいは停止させる.これが,一定以上の時間継続すると組織は不可逆的な阻血性障害に陥り褥瘡となることから,「外力(圧迫とずれ・摩擦力)」の存在は必要不可欠な条件である.しかし,外力が存在しても「一定時間継続」しなければ発生しないため,「一定時間持続」させる状況がリスクファクターといえる.すなわち,外力に対する認知不能または低下,活動レベルの低下,姿勢保持不能または低下である.加えて失禁あるいは発汗などによる皮膚の湿潤,栄養摂取不十分等の組織耐久性の低下があげられる.「外力」とこれらのリスクファクターのひとつまたは複数が伴うことで発生する(図1).外力に関連する日本の高齢者特有のリスクファクターとして「骨突出」(真田ら,1997)がある.これは,寝たきりによる後背筋,殿筋の萎縮と皮下組織減少により起こる現象である.
3) 褥瘡に関する政策
2002年褥瘡対策未実施減算が新設され,①当該保険医療機関において,褥瘡対策に専任の医師,看護師からなる対策チーム(以下,対策チーム)が設置されていること,②当該医療機関における全入院患者について,入院時,および必要に応じて,日常生活の自立度を判定したうえ,褥瘡発生の危険を有する状態にある入院患者について,褥瘡対策に関する診療計画書を作成し実施すること,③患者の状態に応じて,褥瘡対策に必要な体圧分散式マットレス等を適切に選択し,使用する体制が整えられていることが条件として明文化された.その後,この対策は2003年の介護保険と2004年の医療保険において加算措置となり,2006年には褥瘡ハイリスク患者ケア加算へと引き継がれた.また,2004年には特定機能病院において,入院中に発生した重度な褥瘡(stage III/IV)を日本医療評価機構へ医療事故として報告することになった.
以上,褥瘡は医療評価の質指標のひとつとして注目されていることがわかる.
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