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Ⅰ.緒 言
飲酒は人間関係を円滑にし、楽しみやストレスの緩和に有効とされる一方で、健康障害を引き起こすリスクのある薬物でもある。例えばわが国で、生活習慣のリスクを高める量を飲酒する者(1日当たりの純アルコール摂取量が男性40g以上、女性20g以上の者)の割合は、20歳以上で男性14.6%、女性9.1%にのぼる(厚生労働省,2017)。適正な飲酒を考えていくためにも、先ずは人びとにとっての飲酒の意味に焦点をあてることは重要と考えられる。
人は、酒を飲むことにどのような効果を期待し(飲酒効果期待)、なぜ酒を飲む(飲酒動機)のだろうか。ここでの「効果期待(以下、『効果』と表現)」とは特定の物質使用に関して行動的、感情的、認知的な効果として個々が抱くポジティブやネガティブについての信念を指し(Quigley et al., 1996)、「動機」とは(特定の物質に対する)望まれた効果や結果を獲得するための実際の効用を指す(Cooper, 1994)。人は、飲酒することを動機づける過程において、「経歴要因(人格特性や、社会文化的影響、生化学的反応や習慣性など)」や、「現在の要因(現在の情動性の質と量や状況など)」の影響を受ける。そして、飲酒による効果期待を判断し(Cox et al., 1988)、飲酒動機が生じる(Cooper et al., 2015)。また、物質使用に関するこの効果と動機には重複があることが知られている(Cooper et al., 2015)。
この飲酒効果や動機には、飲酒量や飲酒頻度といった飲酒状況や飲酒スタイル等が関連する(Cooper et al., 1995;Leigh et al., 1993)。関連の様相は対象集団によりいくらか異なるが、このような関連要因の検討を行うことは飲酒行為への認知に焦点をあてた対策につながるため重要と考えられる。
本研究では、飲酒効果・動機とその関連要因についてわが国の調査研究を明らかにし、現状と今後の研究課題を考察していく。国内に限定して調査研究を整理するのは、飲酒のあり様が人の生活と経験の文脈に深く根ざし社会・文化的な影響を受ける(Cooper et al., 2015)ためである。わが国はアルコールへの親和性が高く、飲酒観(飲酒の許容場面など)にも性差がある(清水ら,2004)。また、飲むこと酔うことに許容性の高い文化を持つ国でもある(清水,2002)。そのため、わが国の人びとの飲酒に至る心理について、国内を単位として研究を俯瞰する必要があると考える。これまで、飲酒動機に関する海外での文献レビュー(Cooper et al., 2015)はあるものの、国内研究を整理したものは見あたらない。よって、本研究では、わが国での飲酒効果・動機とその関連要因について文献レビューにより明らかにしていくこととした。
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