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はじめに
研究の計画・実施には,その研究のテーマに関連する科学的文献,特に研究論文の十分なレビューが必要である。一般的に,どの学問領域においても,出版された研究論文の質には個別差があり,読者には研究論文の質の批判的な評価が求められる。さらに,その読者が研究を計画・実施するのであれば,個々の研究論文の評価とともに,自分の研究と関連する研究における,すでに研究されたことと,まだ研究されていないことおよび解決されていないことの確認が求められる。なぜなら,いまだ研究されていないことや解決されていないこと,つまり,知識のギャップに焦点を当てた研究の実施により,研究の目的である知識の蓄積への寄与が可能になるからである。そのためには,自分の研究と関連する研究に精通している必要があり,十分な文献レビューが不可欠になる。
Garrardは著書『Health Sciences Literature Review Made Easy : The Matrix Methods(3rd. ed.)』の中で,文献レビューを「特定のテーマに関する科学的資料の分析であり,研究目的の評価,科学的方法の適切さや質の判断,資料の著者が提示した問いと答えに関する分析の吟味,複数の研究結果の要約,調査結果の客観的な総括の記述のために,レビューを行なう者に対して個々の研究を注意深く読むことが求められるもの」(Garrard, 2011/安部訳,2012, p.4)と定義している。本稿で紹介するマトリックス方式は,Garrardにより記述された,体系的に文献をレビューするための構造と過程である。原書の第1版が出版された当初は,マトリックス方式は,バインダーを中仕切りで4つに分け,文献検索の記録,文献,レビュー・マトリックス,文献レビューの総括を紙形式で保存するというものであったが,現在はこれらを電子形式で保存するようになっている。
筆者は,ミネソタ大学看護学部の博士課程でマトリックス方式を知った。当時は新カリキュラムへの移行期であり,筆者は,定められた科目を体系的に履修していかなければならない新カリキュラムと,履修しなければならない定められた科目はほとんどない旧カリキュラムのどちらも選択できる最後のコホートにいた。指導教官からは,新カリキュラムの科目を可能な限り履修することを助言され,履修した文献レビューの科目でマトリックス方式が記載された『Health Sciences Literature Review Made Easy : The Matrix Methods(1st ed.)』(Garrard, 2004)を紹介された。このマトリックス方式を用いて文献レビューを行なったところ,文献の整理と研究の焦点化が容易になり,博士論文のための研究計画が円滑に立案できた。この経験と,原書を紹介した際の日本の看護師の同僚(研修参加者)の反応から,原書を日本語へ翻訳することになった。マトリックス方式の中でも,レビュー・マトリックスの作成は,研究者が計画・実施する研究と関連する研究における知識のギャップを確認するために有用であった。
本稿の目的は,筆者の博士論文作成時の経験を例にこのマトリックス方式を紹介することである。以下では,まず,筆者が①博士論文のテーマに興味をもった理由を説明し,②研究テーマに関する基礎知識の取得,③文献の検索と選択,④レビュー・マトリックスの作成と文献の要約,⑤レビュー・マトリックスの活用と知識のギャップの発見について述べる。
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