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Ⅰ.はじめに
わが国の乳がんによる死亡数は1970年代から増え始め,年齢調整死亡率(女性)は胃,大腸,呼吸器についで4位であり,社会的な役割責任をもつ働き盛り35〜60歳代の癌死1位になっている.乳がんは他臓器のがんと比較して治療成績がよく,さらに手術療法による乳房の喪失が自己概念に影響を与える1)ため,患者への病名開示が高い頻度で行われている.乳がん患者の気持ちや不安の変化について松木ら2)は,状態不安が外来受診時に最も高く,その時期の辛い体験が病名告知や乳房喪失に伴ったものであることを明らかにしている.術前に心理状態が不安定になるという報告はほかに多数あり,患者はそれらのストレスに対して回避や直視,感情表出などの対処法をとって問題に取り組んでいる3,4).そして,看護支援として適切な情報提供や精神的支援の重要性が指摘されている3〜5).
だが,現在術前の乳がん患者の不安や葛藤は,病名告知や乳房喪失に加えて術式の選択・決定の際にみられている6〜9).早期乳がんの治療はそれまで主流だった胸筋温存乳房切除術(以下,乳房切除術)とともに,1980年代半ばから乳房温存術が行われるようになった.乳癌学会はわが国の乳房温存術実施を,1991年12.7%,1997年29.2%と報告している10)乳房温存術が可能な症例は全乳がんの70%以上を占めるものとも考えられており11),今後さらに増え続けることが予測されている10).このような乳房温存術の導入による治療の変化は,それまでの乳房喪失の恐怖とボディイメージや性的機能に対する患者の脅威を減少させる一方で,欧米では初期治療の選択に患者自身が参加する機会が増え,精神的な重荷になっていることが1980年代にすでに報告されていた12).
わが国の乳がん患者の術式選択をめぐる先行研究では,どのような情報が起因になって不安や葛藤を起こしているのか,また患者がその衝撃にどのように向き合いながら術式の選択をしているのかは,十分に明らかにされてはいない.
したがって,本研究の目的は乳がん患者ががん告知後から手術までの術式選択の過程で,心理的衝撃を受けた情報とその対処を明らかにすることである.これは看護師に患者の治療選択を支える援助や,患者の意思を尊重した関係性の有り様を示唆する.
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