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Ⅰ.はじめに
ホスピスは1つの運動である1).運動とは,「社会変動の原因または結果として生ずる社会的矛盾を,直接的または間接的に,特定の構造部分を再構成することによって解決しようと意図して行われる,未組織的または組織的な動員のことである」2)と定義される.ホスピスは,Quality of Life(以下,QOL)を求める人権思想の高まり等によって,それまでの病院での死に対して疑問を抱き,その犠牲になることに「ノー」を唱え,安らかな最期を求める,いわゆるこれまでの医療の矛盾に対する一種の抵抗運動,再構成を進める運動ともいえる.
1967年に英国に始まった近代ホスピスは,ホスピスを普及,制度化しようとする運動として1970年代には世界に拡大した.わが国では,1973年に初めてのホスピスがスタートし,その後,人々の関心が延命からQOLの高い死に向きはじめ,死の準備教育等にも関心が集まり,1991年「全国ホスピス・緩和ケア病棟連絡協議会」,さらに,関連する団体が発足する3).こういった動きが国を動かし,厚生省(現 厚生労働省)は,1990年,診療報酬に「緩和ケア病棟入院料」を新設した4).これによって緩和ケア病棟設置の動きが加速され,理念を高くもつ医療機関によってのみ行われていた緩和ケアが,一般の病院にも拡大する可能性が出てきた.
筆者らはホスピスを推進する「広島・ホスピスケアをすすめる会」の活動に参加する中で,看護師が医療機関といった職場の中だけにとどまらず,社会に対して問題を提起し,地域を変えていくために地域づくりに参加する姿に看護師のchange agent(変革推進者)としての新しい役割5)の具現をみた.そこでわれわれは,10年前(1993年頃)広島県にまったくホスピスが存在しなかった時代から,公的病院に緩和ケア支援センターが設置される2004年までを捉え,広島県にホスピスを推進するために中心的役割を果たした看護師らの具体的な動きとその推進プロセスを記述することにより,看護師がchange agentとして広島県におけるホスピス運動の中でどのような役割を担い,変革を推進してきたかを明らかにすることを目的に,関係者に行ったインタビューをまとめた.
ここで提供される情報は,今後発展していくであろうホスピスを推進していくうえで,看護師がいかに周囲や地域を巻き込み,理念を具現化していくかの1つの示唆となると考える.
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