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I.はじめに
わが国では,2001年に「e-Japan戦略」を策定し,それを受けて厚生労働省は同年「保健医療分野の情報化にむけてのグランドデザイン」を提唱した.わが国の医療施設における電子カルテシステム(以下,電子カルテ)の導入は,これらの重点政策の1つであったが,2006年度までに400床以上の病院および全診療所の6割以上に普及させるという目標は達成できなかった.しかし,その後,電子カルテの導入は進み,日本看護診断学会理事長諮問会議が2013年に実施した調査では,68.1%が電子カルテを導入していた(江川ら,2016).また,2014年には全国の病院および診療所のうち,32.1%が全体あるいは一部電子カルテを導入しており,400床以上の病院では84.1%が導入していた(厚生労働省,2015).
一般的に,電子カルテは診療部門のオーダーシステムや看護支援システムを含んでおり,その他に各部門に対応した情報システムがあり,連携をとり合っている.なかでも看護支援システムは,電子カルテのなかで重要な位置づけにある.
しかし,急性期病院の平均在院日数は年々減少しており,2016年の一般病院は16.2日であった(厚生労働省,2017).医療が高度化し,患者も重症化するなか,急性期病院では認知症やせん妄の患者が増え,業務の複雑化に拍車がかかっている.そのような現状において,電子カルテの導入は医療従事者間の情報共有や業務の効率化,リアルタイムの情報確認等のメリットがある.しかし,一方で,システムに慣れる必要があり,診療報酬のための看護必要度の評価について,その根拠となる看護記録が重要となり,従来以上に負担がかかっている.今後も診療報酬の改定や医療環境の変化に伴い,看護支援システムだけでなく,電子カルテにも大きな影響が及ぶものと考えられる.今後の看護支援システムの改革を考えるうえで,看護過程の鍵となる看護診断・看護成果・看護介入の使用の実態について明らかにする必要があるものと考える.
一方,看護教育においても現在の医療環境の影響が大きい.すなわち,入院期間の短縮化を受けて,学生は担当患者の看護を展開する必要があり,場合によっては複数の患者を担当することも珍しくはない.学生は電子カルテを利用し,患者情報を収集することにかなりの時間を要するなかで,短期間で看護診断あるいは看護上の問題を選定し,必要な看護計画を立案・実施・評価することが求められる.
江川らの調査では,看護診断を教授する教育機関は全体の53.8%,臨地実習で看護診断・看護介入・看護成果を使用するのは14.8%,看護成果分類や看護介入分類はそれぞれ約7%であった(江川ら,2016).臨地実習においても,医療環境の影響は避けられず,限られた時間での有効な学びが必要である.看護基礎教育における看護過程の学びにとどまらず,学生の卒業後の看護実践を考えるうえでも看護診断・看護成果・看護介入の使用の実態について明らかにする必要があるものと考える.
2018年現在,日本看護診断学会は,1995年の設立から23年を迎えることを機に将来構想プロジェクトを立ち上げた.このプロジェクトは,今後10年先を見越し,本学会のさらなる発展を目指した企画である.今回,その一環として,2018年2月現在の全国の医療機関における看護診断・成果・介入の使用実態,および教育機関における教授内容・方法の実態を明らかにするための調査を計画・実施したのでそれを報告する.
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