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Ⅰ.はじめに
わが国の慢性腎不全患者の現況をみると,2008年の透析患者数は約29万人を突破し,国民400人に1人の割合まで高まった.また最長40年以上の生存例など,長期透析と透析患者の高齢化が進んでおり,末期腎不全患者有病率は世界第1位という透析大国である1).
透析患者は,保存期腎不全からの運動制限による運動耐容能の低下や易疲労性,透析導入後は末梢神経障害,血行障害,骨病変などの合併症により活動量低下をまねいている.透析患者の体力特性として,体力の指標である運動耐容能,筋力,バランス機能,歩行機能および身体活動量は,いずれも健常者に比べてきわめて低下している2,3).その主な要因として下肢筋力の衰えがあり,透析長期化と歩行機能低下の関連も明らかであり4),透析患者にとって外来透析を維持することは重要な課題である.
透析患者に対する運動療法は,自覚症状による運動意欲の低下や,透析による時間的制約のために運動の継続が困難とされ,時間確保が可能な透析中の運動療法も報告されているが,非透析日の自主的な運動を含めた運動継続率を上げることが当面の課題である5,6).
近年,透析患者の高齢化により,自律神経障害を伴った糖尿病患者や,心機能障害を有する透析患者の増加により,透析低血圧を経験することも多くなっている.透析中の血圧低下は透析患者の10~30%に認め7),そのうち透析中に突然血圧が低下し,なんらかの処置を必要とする場合を透析時低血圧と呼んでいる8).この透析時低血圧は透析関連低血圧で最も頻度が高く,透析治療を安全に行ううえでの重大な障害となりうるばかりでなく,患者が質の高い社会生活を維持する際の主要な制限因子となっている9).また,透析中の血圧低下は透析患者の2年生存率に対する独立した危険因子になると報告されており10),生命予後にも影響することから,その予防と治療に努めることが必要である11).
透析患者に適した運動は,健康の維持・増進を目的として,低負荷で手軽に継続できることが望ましい.過去においてわれわれは歩行運動に着目し,下肢筋力低下予防と運動の意識づけを目的に「歩行増加運動推奨による体組成量と脂質の変化」12)を報告し,体脂肪率,筋肉率,筋肉量の変化および脂質値などの改善結果を得た.
よって今回,継続運動実施者において,透析時低血圧を生じていた患者に焦点を当てて,歩数運動が透析時の血圧低下を予防するか調査することを目的とした.
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