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医療機関における身体抑制・拘束はなかなか減らない。いやむしろ、増えているように思われる。本人の同意なしで身体拘束をするのは違法であると、名古屋高裁が判決を下したのは昨年2008年5月であった。その後、医療機関は安全管理委員会などが中心となって身体拘束を実施する際の患者・家族からの同意取得や一定時間ごとの観察などを盛り込んだガイドラインを定め、記録も含め看護師に順守徹底を促している。しかし、各県協会等での看護倫理の研修における倫理的問題に関する提出事例を見ても、抑制は依然として多い。看護師は「患者の生命と安全を守るために」ガイドラインに沿ってミトンをつけ、紐で手足をベッドにくくりつけ、拘束具で車いすから立ち上がれないようにし続けている。そして、これでよいのかと悩み苦しんでもいる。
この背景には、患者の高齢化やこれに伴う認知障害が多いこと、依然として看護職員が十分とは言えないことがあるのは言うまでもない。これに加えて、他にもいくつかの要因が考えられる。まず、病院の役割や医療提供の考え方についての変化である。国の医療行政は、医療費を抑制すべく病院機能の分化と効率化を押し進めてきた。急性期病院では、診断治療を短期間に効率よく進め、患者の状態がそれなりに安定すると次に送る。受診する人の動機や目的などは、実はさまざまなのだが、病院の側は医療を求めて病院に来たのだから、入院させたからには何もしないわけにはいかないと、持てる手立てを繰り出す。医療技術の開発は、かつて寿命と受けとめられていた状態にも医療の手を加えることを可能にし、急性期病院は患者を静かに看取る場ではなくなった。高齢で合併症があるなどのリスクが高い患者も手術を勧められ、食事が取れなくなると経管栄養や胃ろう造設、呼吸状態が悪くなると挿管・呼吸器装着である。しかし、これらの医療行為は確かに患者の生命の延長をもたらすのだが、それに伴って抑制拘束という事態をも引き起こしているのである。そして、事前のICにおいて、予測されるリスクとして術後せん妄や不穏があること、その際に身体拘束とその悪影響の可能性が高いことは、必ずしも明確に説明されているわけではない。
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