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はじめに
ノーマライゼーションがさけばれ,障害者の自立が困難となっている今日,住宅の問題は欠かせないものと考える。
障害者への住宅対策として,国および都で現在行っているものをあげてみると次のようなものがある。①自宅を購入,新築,増改築する場合の資金融資あっせん制度。これは,都や住宅金融公庫,年金福祉事業団が,障害者世帯に対し,融資面積,融資額を一般より割増しするもの。増築の場合,都はこれに利子補給をして2.0〜2.2%の低利率としている。しかし,巨額の返済能力が問われるので,一般には,手を出しにくい状況にある。②増改築,補修のための世帯更生資金の住宅資金貸付け制度。これは,社会福祉協議会が,低所得者および身体障害者世帯に一定額を貸しつけるもの。③重度心身障害者(児)日常生活用具および設備改善費給付制度。福祉事務所が申し込みの窓口となっており,上記②と併用ができるので,住宅改造時にはよく利用されている。浴槽,湯沸器,便器,特殊便器,特殊寝台の貸与および浴場・便所の改善費(18万円・9万円)がある。しかし,これは,改造が可能な住居を所有している者にのみ有効である。④公社・公営住宅への優先入居や家賃の減額制度。低所得者で住宅に困窮している人に対し,東京都では,公営住宅を提供している(図1)。身体障害者を含む一般世帯および心身障害者世帯向住宅には,一般の5〜7倍の優先入居が行われている。日本住宅公団でも,5倍の優遇をしているが,こちらは収入がかなり多くないと入居できない。しかし,現実は,希望者が多くてなかなか入居できないのが実態である。又,一定基準収入以下の心身障害者世帯に,家賃減額の制度がある。
東京都住宅局では,老人・母子・心身障害者世帯と,特に収入の低い世帯の特殊目的住宅を対象に,困窮度の高い世帯より順に登録するポイント方式を採用しているが,昭和46年度より,車いす使用者世帯向住宅がこれに加わった。しかし,車いす住宅の場合,入居する障害者の障害状況が千差万別であるために,建設のハーフメイド化が実施されるようになり,当センター内に,モデルハウスが設置された。そこでは,高さ測定用に,和室,便器,洗面器,浴室と台所シンク部分が上下に移動する装置があり,入居予定者が家族と共に実際に使用して1日を過ごしてその障害者に適応した設備内容を検討する。その後,住宅設計調書を作成して,実際の住宅の建設設計にそれを反映させる。当時,これらの障害者を含めた動きは,都においても活気的なことだったといえる。
車いす使用者向に特別に設計された公営住宅は,神奈川県,大阪府,北海道,京都府,宮城県,高知県,福島県など各地にあり,建設率は増加しているが,「ハーフメイド方式」と「障害者が世帯主でなく同居者であっても,満6才以上で,車いすを自力で操作移動できれば申し込めること。」は,都独自のものである。
東京都では,重度障害者が単身でも,自立的に生活ができるよう整備したケア付住宅,「肢体不自由者自立ホーム」を建設しているが,いずれも,地域コミュニティにおける障害者の生活の場を補償するものといえる。
昭和50年より,毎年6月・12月の公募に応じ,年間30件弱の設計調書の作成を始めて8年を経た今日,電動車いす,ハンディキャブ,移動用リストやホイスト,環境コントロールシステムなど,各種機器の実用化が進む中で,徐々にではあるが,重度の障害者が地域内で活動できるようになってきている。そして,車いす住宅の入居希望者にもこれらの重度者が含まれるようになり,公営住宅のケア付住宅化とでもいおうか,ADLが未自立な者への対応が問われるようになってきつつある。
車いす使用者向住宅は,入居者の声を反映して,年々改善を加えてきている。専有面積は,初期の52.84m2から69.16m2に拡大された。ベランダや外通路の水切傾斜や溝による使いにくさは,穴あき鉄板の蓋で解消された。ベランダへの出入扉のレール溝に車いすのキャスターがおちないよう常設した重い可動式の鉄板蓋をとりやめ,扉を片開きとして,レールの溝巾を可能な限り狭くした。洗濯機の置場は,ベランダ,台所横,サニタリールーム側のDKコーナーから,希望の多いサニタリールーム内に移ることになり,漏電の問題が克服された。サニタリールーム内から発音する安全ブザーが防水性となった。熱効率をよくし,結露をさけるため,浴室に扉をつけ,床を板張りにした。玄関扉を軽くし,のぞき穴,手摺や鍵はその位置を低くした。天井棚は使用が困難なためたとりやめ,和室が選択され30cm以上の床高の場合,床下に回転式,引出しを設けられるようにした。などである。
しかし,電動車いすで走行は可能だが,乗降動作の未自立な者など,ADLが未自立な入居予定者への対応が問題となってきている。又,これまで,必要に応じて手摺を可変式としたり,弾力的対応をしてきたが,入居後の障害の変化や住み変えなど,新たな不都合に対しては,設備・器具が可変式でない限り充分な対応は困難である。現在の基本設計は自立者向のイメージが濃いので,介助を要す者には,その都度,試行錯誤をくり返す結果となっている。そこで,これまでの,とりわけ障害が重度で,当初特別の配慮を要した入居者の生活実態調査を行い,そこから改めて有効的対応策として一般化できる方法を見い出し,一定の解決策としたいと考えた。
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