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リハビリテーション医学は,疾患により障害された患者の「活動」を治療し,「活動」を回復させることを探求する学問である.最近,リハビリテーション医学における動的ネットワークやヘテラルキー特性を考えさせられる.動的ネットワークとは,ニューラルネットワークで用いられる用語であるが,ネットワーク内のノード間の接続が時空間的に変化することを表している.また,ヘテラルキーとは,「ヘテロ」(異なる)と「ヒエラルキー」(トップとボトムをもつピラミッド型の階層構造)を組み合わせた語で,各要素・各層が多重的に,並列的に,入れ子構造をとり,ときにヒエラルキー的階層構造をもつがそれら階層は固定的でなく柔軟に入れ替わる動的多様構造システムを表している.これらはネットワークダイナミズムを示すものである.
活動とは身体的・認知的動性であり,回復とはそこに時間的動性が加わる.活動の回復は静的ネットワーク・階層固定的なヒエラルキーモデルでは十分に説明できず,ヘテラルキー特性や動的ネットワーク特性を考える必要がある.例えば,ミクロからマクロ,低次から高次脳領域,脳活動からの行動発現,といったヒエラルキー的階層構造を仮定すると,歩行トレーニングによる前頭葉機能の回復,精神努力による神経伝達物質分泌促進と機能回復,などは階層構造を飛躍する事象となる.また,このような動的状態に介入し,新たな状態をつくり出し活動を回復させるのがリハビリテーション治療である.現在,新規治療法として,非侵襲的脳刺激に加え,ロボットリハビリテーション,ブレインマシーンインターフェイス,再生医療などがあるが,成功している治療法は分子・細胞から行動まで階層を超えた動的状態を変化させることで機能回復を可能にしていると考えられる.リハビリテーション医学は,臓器別モデルにおけるミクロレベルの異常からマクロレベルの社会生活までを包含し,リハビリテーション治療は領域横断的に,階層を超えた動的状態を変化させ得る.
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