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はじめに
未来の機能回復訓練はロボットリハビリテーションが中心的な役割を担うかもしれない.特に,高齢化社会,労働力不足,医療費増大という社会的問題を抱える先進諸国においては,ロボットに対する期待が高まっている.実際,上肢機能回復に限定しても,Hocoma社のArmeoシリーズなど多数の製品が上市されている.一説では,2020年には世界におけるリハビリテーションロボットの市場規模は約2,000億円に達すると推定されている1).一方,アカデミックサイドにおいても,2000年代からリハビリテーションロボットに関する論文の数が加速的に増加している2).
それでは,実際に,リハビリテーション医療にロボットを使うことにどのようなメリットが期待されるのだろうか.例えば,ロボットによってリハビリテーション治療を自動化することができるし,訓練の強度(intensity)を高めることができると期待される3).このようにロボットによる機能回復訓練の高度化は容易に想像できる.しかし,残念ながら,これら期待される効果は明確には実証されていない.ロボットを用いたリハビリテーション治療効果に関するメタ解析によれば,従来型のリハビリテーション治療に比べて特段大きな効果は認められない4).
通常,ロボットを高精度に制御するためには,ロボットが接する環境の力学的な特性に対する知識が必要となる5).そして,人と接するロボットを制御するためには,人機能の特性を十分に考慮する必要がある6).したがって,もしも達成目標が運動機能の回復であれば,脳の機能回復の特性を十分に考慮したロボット制御を行うことが必要となるであろう.これまでのリハビリテーションロボットの研究開発に不足していたのは,工学的な枠組みに基づいた機能回復メカニズムの理解と記述と,これに基づく訓練プランニングである.ニューロリハビリテーションに関する科学的知見は7),このような機能回復メカニズム理解の基盤ではあるが,さらに必要なのはこの知見を工学的な枠組みで記述し,応用可能な体系にすることである.このような問題をカバーする学問領域を計算論的神経リハビリテーションと呼ぶ.
本稿では,脳における運動学習機構をニューロリハビリテーションにとって必要な中心事項として捉え8),さらに意思決定機構の理解も含めながら,現状の計算論的神経科学の各知見がニューロリハビリテーションに対してどのように貢献する可能性があるのか検討し,それぞれの知見を活かしたロボットリハビリテーションの可能性と実現方法について議論する.
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