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はじめに
重症例のみならず軽症例でも脳損傷後に注意障害が出現し,その頻度は少なくない.脳外傷患者はしばしば2つ以上の物事に同時に注意を払えないと訴え,これはdivided attention(以下DA)の障害を示唆している.DAとは,2つ以上の刺激または1つの課題中の複数要素に同時に注意を向ける機能とされる1).DAの障害は復職や社会生活上の制約に関連する.しかし従来,臨床の現場においてDAが着目されることは少なかった.本来の標的以外の刺激を抑制,無視する機能を主体に注意障害が議論されてきたという歴史的背景もその要因と考えられる.2つの有用な刺激に同時に注意を向け,反応するというDAは他の注意の機能と一線を画すものといえる.
その必要性が論じられているものの,臨床的に普及したDAの評価・診断検査はない.本邦では注意障害の診断ツールとして,「標準注意検査法(以下CAT,Clinical Assessment for Attention)」(日本高次脳機能障害学会・編著,2006)がよく用いられる.CATには複数の下位検査があり,評価対象となる注意機能あるいは注意のサブコンポーネントが異なる.注意の配分,転換,制御などに関連するものとして,Symbol Digit Modalities Test(SDMT),記憶更新検査(Memory Updating Test),Paced Auditory Serial Addition Task(PASAT),Position Stroop Testなどが挙げられている.しかし,これらの諸検査がすべて正常でもDAの障害を疑う症例が存在し2),このことは(特に軽症例の場合)DAの診断が難しいことを示している.
本シンポジウムでは高次脳機能障害のなかでもDAの障害に焦点をあて,臨床的問題や今後の課題などについて論じたい.
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