- 販売していません
- 文献概要
- 1ページ目
- 参考文献
はじめに
高次脳機能障害の高次とは何に対して高次であるのか.麻痺などの身体的機能障害に対して高次ということである.高次脳機能とは言語,行為,知覚認知,記憶,注意,判断,情動など脳で営まれる様々な機能を指す.これの障害された状態として,失語,失行,失認,記憶障害,注意障害,遂行機能障害,情動障害などが出現する.一方わが国で障害福祉サービスを受ける上での障害者の定義は,障害者基本法による.同法は2011年8月改正されたが,改正前は「身体障害,知的障害または精神障害があるため継続的に日常生活または社会生活に相当な制限を受ける者」(障害者基本法第2条)と定義されていた.上記の高次脳機能障害による症状のうち,失語については従来身体障害として認定されていたが,その他の症状については身体障害を合併していない場合は既存の障害福祉制度のなかでは障害者と認定されにくく,サービスを受けにくいということがあった.また高次脳機能障害は麻痺などと異なり,外見からはわかりにくく,後遺症に気づいた時にはどこで診断や支援サービスが受けられるのかよくわからず,結果として医療と福祉のはざまに落ちてしまうということが生じていた.身体障害を伴わない高次脳機能障害においては,医療から福祉への連続したケアが適切に提供されていない,という状況から,まず1997年頃より当事者・家族会の結成,働きかけが始まり,その要請に応える形で,2001年厚生労働省の事業として,高次脳機能障害支援モデル事業が開始された.この間の社会的背景,経緯について日本脳外傷友の会がまとめている1).このモデル事業では,5年間で高次脳機能障害に対する診断基準,標準的訓練プログラム,標準的社会復帰・生活・介護支援プログラムを提示するという目的で,12の自治体が参加し,支援サービスの試行的実施を行い,その事例を収集・分析した.参加した自治体は,北海道・札幌市,宮城県,埼玉県,千葉県,神奈川県,三重県,岐阜県,大阪府,福岡県・福岡市・北九州市,名古屋市,広島県,岡山県であり,これに国立障害者リハビリテーションセンターが加わった.収集した事例は,高次脳機能障害があり,現存のサービス体制の利用には困難があるが,適切な医療・福祉サービスの提供により自立した社会生活を送ることができるようになる18歳以上65歳未満の症例であり,これら症例を分析した.年齢層を区切ったことは,65歳以上であれば疾患を問わず介護保険の対象となり,また18歳未満であれば療育手帳の対象となり,すでにあるサービス体制を利用することが可能であるためである.このように集積されたデータに基づいて,2005年「高次脳機能障害診断基準」が作成された.この行政的診断基準では特に記憶障害,注意障害,遂行機能障害,社会的行動障害が主要症状とされた.これはモデル事業に登録された症例中各症状を呈するものがそれぞれ90%,82%,75%,81%と上位を占めたことによる2,3).モデル事業実施当時,これら登録症例中身体機能障害もしくは失語の合併有りが57%,無しが43%であった.障害者手帳所持のものが47%(身体障害者手帳42%,精神障害者保健福祉手帳9%,療育手帳2%)であったことから,身体機能障害あるいは失語を合併したものの多くは身体障害者手帳を取得していると推察された.
Copyright © 2012, The Japanese Association of Rehabilitation Medicine. All rights reserved.