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はじめに
今回の脳性麻痺リハビリテーション(以下,リハ)ガイドラインは,リハ医学会としての脳性麻痺に関する初めてのガイドラインとなり,疾病の疫学から社会問題まで及ぶ大変欲張った内容を網羅するガイドラインとなった.最近の診療ガイドラインはevidence based medicine(EBM)の流れがあり,randomized controlled trial(RCT)やメタアナリシスといったエビデンスレベルの高い文献に基づくものが主流になっている.リハの分野では無作為化が難しく,エビデンスレベルの高い論文が少ないのも事実であり,今回のガイドライン作成においても困った部分である.
痙縮に対する治療は,脳性麻痺の治療において,この10年で大きな進歩があった分野で,能性麻痺の治療体系を変えさせるインパクトがあった.これまで痙縮に対しては,必ずしも十分な効果を得にくい経口筋弛緩剤,末梢神経やモーターポイントに対するフェノールブロック,できあがってしまった拘縮に対する整形外科手術などしかなかった.有効な治療がない中で,神経発達学的リハ,選択的筋解離術など,科学的な根拠が必ずしも十分と言えない治療が主流となる状況が続いていた.
欧米ではこの10年で痙縮に対し,患者選択の見直しと術中モニターの導入により痙縮に対する効果の向上と副作用の減少を実現した選択的後根切断術,植え込み型ポンプの実現によりバクロフェンの脳血管関門を越えにくい問題を解決し,中枢性筋弛緩剤の効果を高めた随腔内バクロフェン投与療法,確実な効果が期待でき,痛み等の副作用の少ない,ボツリヌス毒素によるブロック療法と痙縮に対する確実な効果が期待できる治療法が導入され,効果に対する科学的根拠も示されてきた.
確実な効果が期待できることで,欧米では痙縮の治療を前提として,リハプログラムや整形外科治療の在り方の見直しが行われつつある.リハ分野では,神経発達学的リハの偏重から,筋力強化を中心に,繰り返しての訓練に重きが置かれるようになり,整形外科手術では,拘縮の後始末でなく,発達の遅れの中で逃した,骨のリモデリングの補正,レバーアーム・ディスファンクションの修正を行い,筋が有効に働くことを可能にする手術に手術目的が変わるなど,治療体系の変更が起きている.また,リハ科医,整形外科医,脳外科医,療法士が連携しての痙縮外来などチームとしての医療の提供も行われている.
このセッションは,痙縮に対する外科的治療ということで,当ガイドラインの中でも新たな知見の多い分野であり,ガイドライン作成において,リサーチクエスチョンとして取り上げられた事項につての概説を行い,新たな治療についても簡単に紹介してガイドラインの紹介としたい.
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