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はじめに
1990年代初頭にevidence based medicine(EBM)の概念が提唱されて以来,より良い治療法の選択には,「正しい方法論に基づいた観察や臨床研究に基づく科学的根拠」が必須であるという考え方が医学の大きな潮流になっている.この概念が患者利益のみならず,深刻な医療経済危機に対する処方箋に資することは疑いの余地もない.翻ってリハビリテーション(以下,リハ)における各種治療の「科学性」についてはどうだろうか.残念ながらリハにおけるEBMは脆弱であるといわれ,複雑な障害像やリハ提供条件などから無作為化比較試験(randomized controlled trial:RCT)に難渋していることも否めない.しかしながら医療費抑制の波は昨今,リハの現場にも押し寄せ,疾患別リハの導入とともに算定期限の設定,改善度の提示義務などが求められるようになってきている.すなわち,蓄積されたエビデンスを整理し,EBMに基づいた治療選択基準や効果を明らかにしていくことが急務なのである.
なかでも日本の高齢社会化に伴って発生率が増加の一途を辿り,寝たきりの原因の20%を占めるとされる大腿骨近位部骨折への対応は,喫緊の社会問題である.現在,様々な観点よりの疫学調査や治療法の検討などが行われてはいるが,いまだ大腿骨近位部骨折に対するリハのEBMは不十分な状況である.手術を含めた整形外科的な介入方法の違いや,それによる時期,期間などの違い,施設間,術者間の比較の難しさ,高齢者が多い患者の併存疾患の多様性なども大腿骨近位部骨折に対する治療の効果判定を非常に困難なものにしている.
本稿では,大腿骨近位部骨折に対して現在,施行されているリハのエビデンスを一次/二次情報データベースなどに求めた.対象としては,わが国のリハ科診療として一般に大腿骨近位部骨折に対して施行されている周術期リハ,回復期リハ,地域連携クリティカルパス,転倒・骨折防止の取り組み,そして昨今リハの分野でもしばしば問題となることが多くなってきた深部静脈血栓症を取り上げる.
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