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はじめに
歩行能力や運動能力の低下は日常生活動作(ADL)に直結する.運動器疾患のリハビリテーション(以下,リハ)はこれらの予防や治療に大きな役割をはたす.運動器疾患のリハの対象は変形性関節症,脊椎変性疾患,関節リウマチ,スポーツ外傷・障害,骨折,脊髄損傷,切断など多岐にわたり,運動器疾患に罹患する年齢層は小児から高齢者まで広い範囲にわたる.すなわち発達障害,ペルテス病,先天性股関節脱臼などの小児疾患から,骨粗鬆症性圧迫骨折,大腿骨近位部骨折など高齢者におよぶ.治療の目標(ゴール)は個人によって大きく異なることも重要である.たとえば,若年者を中心とするスポーツ外傷・障害は受傷前のスポーツレベルに復帰させることがゴールであり,高齢者では運動能力復帰によるADLの改善や疾患の進行予防が主なゴールとなる.
運動器疾患リハを担当するリハ科医師には,ここの患者の状況に応じたアプローチが必要であり運動器に関する幅広い知識や総合的な判断力が要求される.スタッフへの細かな指示のほか患者へのゴールの説明,禁止動作など日常生活までにおよぶ細やかな説明・指導が必要である.さらに訓練中の安全管理も重要である.転倒・転落はもとより,無理な筋力訓練や可動域訓練,訓練プログラムに沿っていない時期尚早な訓練や意味のない訓練が行われていた場合は,中止する必要がある.さらに患者のコンディションにも注意が必要である.意識状態,血圧,脈拍などのvital signはもとより,深部静脈血栓症にも十分な注意が必要である.
運動器リハは,ここ10数年で大きな進歩をとげた.人工股関節置換術を例に挙げると,かつては術後1〜2週はベッド安静,その後6週間部分荷重を指示される時期が存在した.その間患者の筋力低下,関節可動域の低下は免れなかった.現在では術後早期に離床,荷重開始し3〜4週で自宅に退院もしくはリハ目的で転院するケースがほとんどである.まさにリハ医学,整形外科学,運動力学,生体工学,バイオメカニクスの発展のおかげと考えてよい.さらに生活習慣病の予防のための運動療法や脊髄損傷患者の痙縮に対するボツリヌス療法やバクロフェン髄注療法も最近では行われている.
2005年から2025年までに高齢者は100万人増加し,その増加分のほとんどは75歳以上という超高齢社会を迎えた現在,大腿骨近位部骨折患者は年間15万人から2040年には年間40万人に達するといわれている.運動器疾患の代表である大腿骨近位部骨折患者を無事に社会復帰させることは,運動器疾患を担当するリハ科医師にとって必須である.本稿では,大腿骨近位部骨折のリハを中心に,注意点,問題点を述べる.
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