- 販売していません
- 文献概要
- 1ページ目
- 参考文献
はじめに
痙縮は,中枢神経疾患を扱うリハビリテーション(以下,リハ)において,避けて通れない問題である.これまで効果的な治療介入が難しかったが,痙縮に対して効果が期待できる新たな治療法が確立され,本邦にも導入されつつある1).痙縮に対する治療介入の中で,個々の治療の位置づけ,特徴をふまえ,より適切な痙縮治療を行い,有効なリハに結びつけるための議論が本シンポジウムの目標である.まず,簡単に痙縮と痙縮治療の体系にふれて,2006年4月より保険診療としての治療が可能になった髄腔内バクロフェン投与療法(Intrathecal Baclofen Therapy,ITB療法)について概説する.
痙縮は筋緊張異常の1つで,伸長反射の過度の興奮で説明され,上位ニューロン症候群の1つである2). 実際の臨床では,共同運動や精神的緊張などの要素もあり単純ではないが,治療介入を考える際には,痙縮を反射回路を過度に信号が回る伸長反射の亢進と捉えると分かり易い.亢進している反射経路を抑制,あるいは切断することで痙縮が治療できる.図1にそれぞれの治療法が介入する箇所を示す.
痙縮の治療として,原疾患そのものが治療され,上位中枢からの抑制が回復することも考えられる.神経幹細胞移植による脊髄損傷の治療も可能性はあり,動物では痙縮のみならず麻痺まで改善するが,実用化には時間を要すると思われる.現実には図1に示したように反射弓のどこかを切るか抑制すれば良い.中枢性筋弛緩剤の内服やITB療法は脊髄での単シナプスあるいは多シナプス反射を押さえて反射を抑制する.末梢神経ブロック,神経縮小術は末梢神経で反射弓を遮断する.末梢性筋弛緩剤,モーターポイントブロック,ボツリヌス毒素は運動神経と筋の接合部をブロックする.選択的後根切断術(SDR),後根遮断術(DREZ)は後根に入る部分での切断である.筋や腱に対する整形外科的処置は伸長反射の引き金となる筋紡錘の信号を抑制して局所の痙縮を抑制する.整形外科手術は痙縮の結果として生じた拘縮に対する治療,拮抗筋がうまく働かないことに対し,筋・腱の移行で動きを整理すること,筋活動の土台となる骨のアライメントを改善し,てこの腕として働かせることを目的に行うこともある3).
ITB療法の痙縮に対する治療介入のなかでの位置をまとめると,脊髄での過剰な神経反射を抑制することで痙縮を抑制する.脳神経外科的手術を要するが,基本的には薬物療法であり,経口剤と作用は同じである.ただし,体内に植え込んだポンプからカテーテルを通して作用部位である脊髄に直接薬剤を投与することで血液脳関門を越えることを可能にし,作用部位での十分な薬物濃度を得て,経口投与とは比較にならない効果を実現した.機能的脳神経外科手術によるDDS(drug delivery system)の進歩といえる.
経口筋弛緩剤は中枢性と末梢性があるが,代表的な中枢性筋弛緩剤のバクロフェンでも痙縮に対する有効率は30%程度である.ある程度効果があるものまで含めても60%程度で,重度痙縮への効果は限られている.また,副作用としてのだるさ,眠気などがあり適量に調節するには時間をかけての増量を要す.ダントロレンナトリウムでは長期投与での肝機能障害が問題になったりなかなか使いにくい面もある.効果があまり期待できず,内服の筋弛緩剤の投与は積極的に行われているとは言いにくい.
Copyright © 2009, The Japanese Association of Rehabilitation Medicine. All rights reserved.