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連載にあたって
はじめに
発達が気になる子どもは,自由に体を動かすことや,道具を適切に握ったり操作したりすることが苦手な場合があります。
人が体のどこかを自由に動かすためには,動かす部分以外を固定して止めておく必要があります。そして手足や体を自由に動かすためには,自分の体の大きさや位置関係などの身体イメージができていることが大切です。また,初めて行う動きであれば,その動きをイメージして自分の体で行うといった「運動をつくり出す力」と,行ったときの「誤った動きを調整する力」が必要です。人の動きにはこれ以外にも,「両手を協調させて動かす力」など,多くの力が関係しています。
姿勢を正して座るときには,どの部分をどのように動かしたらよいか,あらかじめわかっていなければなりません。背中だけ力を入れたのでは体が反ってしまいます。姿勢よく座るためには,お腹と背中の力を適切に合わせて入れる必要があります。着替えは,自分の体を使った三次元のパズルになります。洋服のかたちを立体的に把握して,自分の体に当てはめていくことが大切です。
道具や物を操作するためには,道具や物の形状と,自分の手足や体との位置関係を把握する必要があります。道具や物を握るときには,その道具や物のどの部分に自分の体のどの部分を合わせるのか,どのように体の力を入れて固定し,どの方向に力を入れて動かすのかを無意識なレベルで判断できなければなりません。例えば,はさみで紙を切る場合であれば,非利き手で紙を切りやすい状態にして持ち,はさみを利き手の指で把持した状態で動かしていく必要があります。
発達が気になる子どもは,これらの動作を無意識に行うことが難しい場合や,体をどのように固定してどのように動かすかといった操作する動きがよくわからない場合があるのです。
自分の体をどのように動かしたらよいかを教えていく方法の一つに「ハンドリング技術」があります。従来,肢体不自由のある方に対して行われてきたイメージがありますが,体をうまく動かせない子どもたちにも,とても有効な技術になります。子どもに体の動きを教えるときには,介助者が動かす部分を直接持って動かすところから始め,しだいに体の離れた部分を支えて動きを誘導するというように段階づけし,最終的には子どもが一人でできるようにします。介助者の子どもに対する位置は,はじめは子どもの後ろから二人羽織のように行うと,介助者の動きを伝えやすくなります。この際に,操作する物を子どもの手で直接握らせるなど,子どもが自分で操作しているかのように介助すると,より効果的になります。課題の内容によっては,横から,あるいは前から支援することもありますが,はじめは後ろから取り組んでみるとよいでしょう。ハンドリング技術では,固定する部分,動かす部分と動かす方向,重心の移動など,全身に配慮して行っていきます。
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