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はじめに
平成27年度介護報酬改定を総じて言えば「リハへの道しるべ改定」であると高く評価している。厚生労働省では「新たなリハビリテーション」という表現をしているが,今回の改定は「リハの原点回帰」が図られたと言えよう。一方,この原点回帰が自らの反省に基づいて,自らの力で実行されなかったことについてはリハ医療関連職としての反省が必要である。
1981(昭和56)年に定められたWHOのリハの定義(表1)では,社会的統合こそがリハの目的であるとされている。そして,そのためには訓練のみに終始するのではなく,社会すら変えることもその業務とされている。このことを忘れ去ったのはなぜだろうか。元来,リハ医療は第3の医療としてデビューし,従来の疾病を対象とした医療とは一線を画していた。だからこそ,昭和40年代からADL重視のリハ医療を展開し,昭和50年代からはQOL重視のリハ医療が提唱され,われわれは実践してきたのである。この障がいを対象としたリハ医療が,疾病治療のための診療報酬に組み込まれ,次第に疾病治療型のリハが主流となっていった。その結果が今回の改定で強く指摘された「心身機能に偏ったリハ」になっていったと言える。この「心身機能に偏ったリハ」ということで,なぜかPTがやり玉に挙がっている。今回の問題は現在のリハ医療のあり方そのものが問われたのである。リハ医療はチーム医療であり,それぞれの専門職は専門的な役割を持っており,その分業と統合を行う役は医師にある。リハ医療としての原点回帰,今回の改定をその発端にしたいものと考える。
また,介護保険が創設されるまでは,リハ医療の世界では「プラトー」という言葉が頻繁に使われていた。一定期間リハ医療を提供し,症状が固定したときにこの言葉を使っていた。ここで「患者から障がい者へ」の切り替えが行われる。ここで大切なことは医師を筆頭として,担当PTや担当OT,そして医療ソーシャルワーカー(MSW)などが一体となって予後のインフォームドコンセントを実施してきた。そのための1つとして,筆者が奉職していた九州労災病院では,毎月,各課のリハ回診(図)が理学療法棟で行われて,そこには主治医・リハ科医・看護師・PT・OT・ST・MSWが集まり,「プラトー」の確認を行っていた。この過程がないと,患者はなかなか障がい者への切り替えに同意してくれないのだ。これからがリハ医療の本分で,障がいをもちながら,社会的統合をいかに果たすかにチャレンジすることになる。ところが,介護保険の導入後は悪い意味で切れ目がないリハ医療が綿々と続くようになり,患者はいつまでも患者であって,治ることに固執するようになってしまった。
このように,医療政策などの複合的要素によって,心身機能改善のための機能訓練中心のリハが蔓延していったと言えよう。この患者から利用者への切り替えを新しい形で構築しようとするのが今回の改定と理解している。
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