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はじめに
疼痛生活障害評価尺度(pain disability assessment scale:PDAS)とは,慢性疼痛(慢性痛)における生活障害(disability)の程度を査定するために有村ら1)によって開発された自記式質問紙である。日常生活におけるさまざまな活動がどの程度,痛みによって障害されているかを評価する。
慢性疼痛とは,痛みが身体の損傷や身体疾患によって生じた際,それが通常治癒に要する時間よりも長い間,痛みが持続している状態のことを指している。一般的には3カ月以上持続する痛みを慢性疼痛と呼ぶことが多い2)。また,身体医学的に痛みをきたすような疾患が見つからない場合に長期間持続する痛みも慢性疼痛と呼ぶ。がんによる痛みも長期にわたって持続することがあるが,これはがん性疼痛と呼び,一般的な慢性疼痛と区別することもある。がん性疼痛を除いた慢性疼痛は非がん性疼痛と呼び,後者を指して慢性疼痛と呼ぶこともある。
生活障害とはdisabilityの日本語訳である3)。世界保健機関(World Health Organization:WHO)は慢性疼痛などの慢性疾患で生じる日常生活の障害をdisabilityと呼ぶことを提唱し,「人間として正常とみなされる態度や範囲で活動していく能力のいろいろな制限や欠如」と定義し,「身体のケア(排泄のコントロールと清潔や食事の能力),日常生活の他の活動の遂行と移動能力(歩行など)の破綻を含んでいる」とした4)。disabilityは,「能力低下」という訳語があるが4),秋元3)は,disabilityは障害の生活的な側面を表現したものにほかならず,「能力低下」という訳語は不適切で「生活障害」が適切だと提唱している。そのため,PDASではdisabilityの訳語に「生活障害」を採用した。
慢性疼痛では,痛みそのものも問題ではあるが,痛みに伴って生じる生活障害が問題となることも多い。また,慢性疼痛では痛みの完全な除痛が難しいため,治療目標が痛みの除去ではなく,痛みがあってもそれなりの生活が送れるようになること,すなわち生活障害の悪化を防ぐことに置かれることもよくある。そのため,痛み体験や痛み強度の評価と並んで,生活障害の評価も重要である。PDASの開発以前,わが国において日本語で使用できる慢性疼痛の生活障害評価尺度は存在していなかった。そのため,日本の慢性疼痛クライエントの生活障害を査定するためにPDASは開発された。
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