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はじめに
胸椎靭帯骨化症は,後縦靭帯骨化症(ossification of the posterior longitudinal ligament:OPLL)と黄色靭帯骨化症によって起こる重度脊髄障害で,運動麻痺を伴う症例も多いため,その治療は難渋する.この30年の間に,後方除圧固定術が標準的な術式として確立され,全国多施設前向き研究においても73.9%の症例で選択されていた1,4).後方除圧固定術は,インストゥルメントを用いて後方固定を行うことで椎弓切除後の後弯増加を抑制し,制動により脊椎を安定化させる効果が期待できる.ロッディングの際にdekyphosisを行うことで,OPLLに伴う脊髄前方圧迫の程度を減弱させる間接除圧効果もあるため,従来行われていた椎弓切除術に比べて良好な神経学的回復が期待できる3,5).
一般に胸椎の神経学的機能は,日本整形外科学会による頸部脊髄症治療成績判定基準(JOAスコア)から上肢評価項目を除いた体幹・下肢・膀胱機能を用いて評価を行ってきた.胸椎靭帯骨化症に対する胸椎後方除圧固定術は,術後2年までの前向き研究や術後10年の後ろ向き研究において,術前に比べて術後JOAスコアが改善し,その機能は維持されていることを当教室からも報告してきた2).多くの脊椎外科医はJOAスコアの改善や歩行機能の改善をもって治療の成功を評価しており,一定の機能改善を手術はもたらしているといえる.
一方で,実際の患者や靭帯骨化症患者会の声を聞いてみると,運動麻痺以上に“痛みとしびれ”が術後に最も多く残る愁訴となっている現実がある.痛みのために眠れない,強いしびれのために歩くことが困難など,下肢運動麻痺が改善しても十分な機能改善や満足のいく治療につながらない原因の1つとして,痛みやしびれの感覚障害がある.現在のJOAスコアでは,知覚機能は0〜2点で医師が評価するため,痛みやしびれの強さを患者立脚型評価で多段階評価できていないという問題点があり,感覚障害が十分に評価されてこなかった歴史がある.本稿では,われわれが行った全国多施設研究で胸椎靭帯骨化症術後の疼痛としびれの調査を中心に,胸椎靭帯骨化症術後の遺残疼痛としての脊髄性疼痛について概説する.
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