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はじめに
後縦靭帯骨化症(ossification of the posterior longitudinal ligament:OPLL)による胸部脊髄症に対する治療の第一選択は手術であり,本邦においては74%の症例に後方除圧固定術が行われている4).この術式では,椎弓切除による間接除圧に加え,脊柱の安定化が障害された脊髄の回復に寄与する.しかし,後弯位にある胸椎では後方除圧後の脊髄後方移動が制限されるため,その除圧効果は必ずしも十分とはいえない11).後方進入前方除圧術は,信州大学の大塚が初めて報告した術式で,いわゆる大塚法として知られる7).良好な脊髄除圧が得られるものの,限られた作業スペースの中で,後弯位にある脊髄を腹側から突き上げる骨化巣を切除あるいは浮上させる手技は難易度が高く,術中操作による脊髄損傷が危惧される.近年,椎弓根を全切除し側方からOPLLを菲薄化・摘出する方法が,金沢大学や名古屋大学から良好な成績とともに報告されている3,6).しかし,これらの術式では,OPLLの摘出や菲薄化を図るため,脊髄に対する侵襲は術者の技量に左右されると考えられる.
私たちは,大塚法を改良した独自の後方進入前方除圧術により後方除圧固定術よりも優れた手術成績が得られることを報告し,積極的に行ってきた1,5,8).私たちが行う後方進入前方除圧術の基本コンセプトは,「腹側硬膜前方移動」である8).手術の目標は,腹側硬膜の前方移動により硬膜と脊髄の間にスペースをつくり,髄液の流れを改善させることである.OPLLを含む椎体後壁の左右,頭尾側と周囲との連続性を確実に断つため,術前CTで骨化のない高位で後縦靭帯(PLL)を横切する.腹側硬膜は通常OPLLと高度に癒着しているため,OPLLと椎体後壁が前方に移動すれば,腹側硬膜もともに前方に移動する.脊髄のダメージが大きい最狭窄部でのOPLL切除あるいは浮上を行わず,最狭窄部位から離れた安全なところでPLLを横切するため,技術的に容易であり,術者間で脊髄に対する侵襲の差が生じにくい.さらに,神経根を切離しないため,脊髄への血流が温存される.OPLLの摘出あるいは浮上を目指すこれまでの後方進入前方除圧術とはまったく異なるコンセプトの手術といえる.
私たちは2017〜2023年の6年間に本術式を35例に行い,そのうち29例(男性15例,女性14例,手術時平均年齢47歳)は1年以上経過した.本稿では,私たちの術式の適応,手技,成績,除圧効果,合併症について詳述する.
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