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背景と目的
重量物挙上を伴う作業による腰痛が問題となっている.看護や介助など職業上の重作業における腰痛は休業や離職の原因ともなる.そのため,装置による重作業負荷の低減が期待されている.HAL®腰タイプ(Hybrid Assistive Limb®,サイバーダイン,以下HAL)は,腰部および大腿に外骨格およびベルトを装着し,股関節の伸展支援によって腰部動作の負荷を軽減するものであり6),これまでに作業時の疲労軽減や作業効率の向上が報告されている12,13).しかしながら,HALによって支援された高負荷運動において,筋の協調がどのように変化するのかについてはこれまで十分に理解されていない.歩行時や肢運動時にロボットや装置によって直接支援される関節に関係する筋の活動を解析した報告はあるものの10,11,14,15,17),HAL腰タイプを用いた挙上運動のように,直接支援されない関節を含む全身の筋活動が変化すると考えられる場合についての解析は,十分になされていない.
複数筋の協調解析は,筋シナジー解析を用いるのが一つの手法となっている1〜3,5,7).これは,基本単位となる筋の組み合わせパターン(筋シナジー)が(重複を含め)時間的に切り替えられて活性化されると考えることで,個々の筋の活動を説明できるという仮説に基づく4).実際,健常人の歩行中の31筋の活動を計測して解析した研究では,多くても5個の筋シナジーとこれらの活性度の時間変化により,歩行中の筋活動を再現することができることが示されている8).このような運動解析例は数多く報告されており,中枢神経系による筋制御の方式を反映したものと考えられている.すなわち,中枢神経系は,膨大な数の筋を個別に制御するのではなく,筋を比較的少数のシナジーへとグループ化したうえで,シナジーを制御することで目的の動作を実現しているのではないかと考えられている.これはもちろん,動作の実現に適切なシナジーが適応的に運用されていることを意味しており,そのシナジーは具体的にどのようなものなのか,適応的にどのような変化をみせるのか,興味深い.
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