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はじめに
脊椎の手術の道具や技術が進歩する以前は,「“腰曲がり”は歳だから仕方がない」などの一言で済まされる傾向にあった高度な成人脊柱変形(ASD)が,さまざまな条件が整えば矯正可能になってきている.ASDに対する矯正手術における近年の進歩に大きな役割を果たしているのはLLIF(腰椎側方進入椎体間固定術)(OLIF5)やXLIF18)などの低侵襲の腰椎前方側方進入手術)であり,ASDに対する矯正手術へのLLIFの導入に伴い,さまざまな側面で進歩が認められているが,以下に列挙するような新たな課題も出てきた.①安全性/合併症予防の観点からの課題(尿管損傷対策など),②矯正方法の変化/椎体間ケージの挿入経路と形状の変化などに伴う課題(後方からの矯正操作時の前縦靭帯断裂など),③低侵襲化に伴う課題(患者選択上の課題と医療提供側の課題).一方,LLIFの導入に伴い,ASDに対する矯正の原則が疎かにされている傾向も一部に認められ,矯正手術の基本を再認識することはきわめて重要である.
脊柱変形に対する矯正を主目的とした手術は,これまでにinstrumentationの進歩とさまざまな骨切り術の開発/進歩とともに,さまざまな形で進歩してきているが,骨切り術の開発/進歩の背景にも,instrumentationの進歩が存在する.現状で行われているほとんどの矯正手術は,同時に,mobilityを失わせる固定術でもあり,「固定した範囲の代償能をなくす」ということでもある.したがって,固定をするからには可能な限りよいalignmentに矯正することが重要であり,もともと代償能が低い高齢者に対しては特に重要な点である.高度な脊柱変形では,変形位での自然椎体間癒合を認めることが多く,矯正手術の基本は,しっかりとreleaseを行った後に,適切なalignmentにかたどったrodに脊椎を引き寄せることである.可能な限りよいalignmentへの矯正位を得るためのplanningとして,適切な高位で,適切な骨切りを選択することが重要であり,そのためには,それぞれの骨切り術の特徴を熟知することが重要である.
可能な限りよいalignmentへの矯正位を得ると同時に,「長持ち」するという結果がそれなりの割合で担保される術式を選択することは重要である.その意味でも骨癒合対策は重要であり,これらを両立させる手段として,ASDに対する矯正手術を行う際に,LLIFを併用することはさまざまな益をもたらす.また,手術前後に外来でも骨癒合対策を継続して行っていくこともきわめて重要である.
ASDに対する矯正手術は,非可逆的治療であり,また,合併症につながるリスクもそれなりの割合で存在する手術でもあるため,矯正手術の施行を検討する際には,手術前に,手術によって患者さんのADLが改善することをシミュレーションによって確認するなどして,手術を行うことの根拠の土台をしっかりとつくることはきわめて重要である.
ASDに対する矯正を主目的とした手術における以上のようなポイントを鑑み,手術を行う際には,外来診療を適切な形で行うということは,手術前,手術後ともにきわめて重要な要素である.手術前に関しては,①適切な形で患者選択を行う,②実際に手術を行うことになった患者さんに対しては,手術に関して,患者さんとそのご家族の十分な理解を得たうえで,治療に際してさまざまな観点で協力をしていただく土台をつくる,③手術に際しての十分な準備を行う,という3点が重要である.手術後に関しては,①適切な期間,適切な形で体幹装具の装着の指導を行う,②継続的な骨癒合対策を行う,③「長持ち」をさせるための継続的な生活指導を行う,という3点が重要である.
当然のことではあるが,患者さんとそのご家族の十分な理解を得るためには,治療を行う医師自身が,本治療に関してしっかりとした形で理解をしていることが重要であり,医師の十分な説明を通じて,患者さんがしっかりと病態と治療に関して理解をしていることが,患者さんから十分なコンプライアンスが得られることにつながると考える.
その意味でも,本稿では,ASDに対して矯正を主目的とした手術を行ううえで,治療上の重要な点に関しても,ある程度の範囲で概説をさせていただいた.本稿では,以上のような点に関してoverviewすることを目的としており,個々の論点に関しては,現在on-goingで研究を進めている段階のものもあり,それらに関しては今後,英語論文などでpublishしていく予定であり,本稿では具体的なdataを示す形になっていない点に関しては,ご容赦いただければ幸いである.また,本稿は主には若手医師向けの総説であり,ベテランの先生方にとっては基本的な内容が多くなっている点に関しても,ご容赦いただければ幸いである.
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