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脊髄の一次性病変による脊髄性運動失調は,脊髄後索病変により生ずるとされてきた.これは歴史的に脊髄癆による特徴的な運動失調において,病理学的には後索を中心に病変が認められたために,そのように解釈されたためと思われる.実は脊髄癆において最初に生ずる一次病変は後根とされており,厳密な意味では末梢性の感覚性運動失調を呈している.脊髄の一次性病変による体幹・下肢の運動失調を生ずるためには,後索のほかに体幹・下肢からの固有感覚の伝導経路である脊髄小脳路系の病変が必要とされる.脊髄の伝導路は,運動系では側索の錐体路(外側皮質脊髄路)と,感覚系では後索および脊髄視床路しか臨床的には注目されていない.脊髄性運動失調の発現に重要であるにもかかわらず,まだ不明な点が多く十分に解明されていないヒトの脊髄小脳路について,現時点でわかっている基礎と臨床の情報を提供して,注意と関心を喚起し,問題点を整理するために本特集を企画した.
脊髄性運動失調の代表的症候であるRomberg徴候の歴史と意義から,脊髄小脳路の解剖,病理,電気生理および臨床(疾患や症候学)まで,それぞれの分野の第一人者の先生方に執筆していただいた.これまでにあまり扱われてこなかった難しいテーマで,各執筆者の先生方にはご苦労をおかけしたものとお察しする.おかげで,脊髄性運動失調の考え方や,現時点でのヒト脊髄小脳路に関する基礎から臨床までの幅広い知識と情報が,整理されてまとめられた特集となった.特に最後の福武敏夫先生の「脊髄小脳路の症候学」では,脊髄小脳路病変について運動失調全般の中での位置づけから,脳神経内科領域ではまだ謎の多いFisher症候群の運動失調との症候学的共通点を中心に詳細に考察されており,問題の核心をついている.ヒト脊髄小脳路はまだまだ未解明な点が多く,実臨床においても脊髄性運動失調の評価には困難が伴い問題がある.しかし,脊髄疾患の臨床や研究に携わる者には,脊髄性運動失調やその発現に重要な脊髄小脳路について,もっと注意と関心を払っていただきたい.本特集を契機に,脊髄障害における運動失調を含めた神経症候とその病態生理を,新たな視点で捉え直してもらえればと思う.そして,ヒト脊髄小脳路の基礎と臨床の研究のさらなる発展に期待したい.
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