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はじめに—臨床に必要な脊髄小脳路の最低限の解剖と機能
脊髄小脳路は脊髄の外側束に起こり,小脳に終止する神経路である.主要なものとして,背側(後)脊髄小脳路と腹側(前)脊髄小脳路がある.
背側脊髄小脳路(dorsal spinocerebellar tract:DSCT)は後角の付け根にあるClarke柱から起こる.Clarke柱はC7〜L3の範囲にあり,特にT10〜L1でよく発達しており,この細胞へは脊髄神経後根を経由した下半身からの情報が伝達される14).DSCTは同側性に脊髄側索外縁部を上行し,下小脳脚を経由して小脳(脊髄小脳)に達する.伝える感覚情報には筋紡錘からのⅠa群線維やGolgi腱器官からのⅠb群線維による関節運動に関する感覚や足底などからの触・圧覚の情報がある.これらの感覚は意識に上らない自己固有感覚であって,機能的には起立や歩行など下肢や体幹の運動機能を無意識的に制御すると理解されている14).この経路については総説や教科書ごとに解説が異なり,上肢からのⅠa群線維の固有感覚情報は楔状束を経て脊髄楔状核小脳路として下小脳脚を通って小脳に入る18)ともいわれる.上肢については腹側脊髄小脳路(ventral spinocerebellar tract:VSCT)から入る説も以前からある46).Golgi腱器官からのⅠb群線維を介しての下肢の筋トーヌス情報は,交叉してVSCTとして上行し,主に上小脳脚から小脳に入る20).VSCTは2回交叉するとされるが,交叉後の様相はヒトと動物では著しく異なる14).
DSCTは表層にあるので,各種の動物で解剖-機能-生理がよく同定・研究されてきており,それをもとに機能が論じられていることが多いが,ヒトでの解剖は上述のように必ずしも明確に解明されていない.ところが最近では,拡散テンソルトラクトグラフィー(画像)の進歩により,神経路の3次元的可視化・同定ができるようになり,ヒトでのDSCTも研究・同定されるに至った20).この報告によると,DSCT線維の終止領域はまず同側の虫部と傍虫部(100%)であり,同側前葉が29%であるほかに,対側の虫部と傍虫部へ48%と対側前葉へ17%が向かう20).結局,同側優位に両側の小脳に終止することがわかる.この研究者たちもVSCTについてはさらなる検討が必要としている20).
一方,小脳側からの視点でみると,小脳は3分割され,①片葉小節葉は前庭神経核から特殊固有感覚インパルスを受けており,前庭小脳と呼ばれ,本質的に平衡に関わる.②前部虫部と後部虫部の一部は脊髄小脳と呼ばれ,四肢の筋や腱の固有感覚受容器からの投射を受け,下肢からはDSCTで,上肢からはVSCTで小脳に伝達される.脊髄小脳の主要な作用は姿勢と筋緊張に現れる.③新小脳は橋核と橋腕経由(橋小脳)で大脳皮質からの間接的な入力を受け,主として大脳皮質レベルで開始された熟練運動の協調に関わる46).
脊髄小脳,特に虫部(+傍虫部)の症候としては,主として歩行,立位,座位で平衡障害がみられ,体幹動揺が強くて,四肢の協調運動障害は相対的に軽いか正常である15).虫部の吻側では歩行の運動失調が,尾側では平衡障害がみられるともいう.さらに,病変の大きさなどによっては前庭小脳の関与も考慮しないといけない.いずれにしても,小脳半球(新小脳)病変による症候とはかなり異なる.(→「延髄外側梗塞と単独body lateropulsion」の項参照)
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