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超高齢社会でParkinson病(PD)も非常に増加しており,患者の高齢化や罹病期間の長期化に伴い,疾患そのものに起因する姿勢異常のほか,脊椎の変形性変化や椎体骨折などに起因する脊柱変形などが,ADLおよびQOL上の大きな問題となっている. PD患者における骨粗鬆症と易転倒性による骨折,特に脊椎圧迫骨折は,体幹部の姿勢異常と相互に影響し合う関係になる.すなわち,姿勢異常は脊椎圧迫骨折の危険因子であり,また脊椎圧迫骨折が脊柱変形を促進して姿勢異常を悪化させるという悪循環である.同じ患者を診ても,脳神経内科医はPDの病態生理そのものに起因する姿勢異常という観点に注目し,全脊柱のX線学的評価をすることはあまりなく,脊椎圧迫骨折や脊柱変形という病態から姿勢異常を考えることは少ない(PDの専門家においてさえも).一方,整形外科・脊椎外科領域では,成人脊柱変形の診断法や外科的治療の進歩により,下肢を含む全脊柱アライメントを詳細に評価し,脊柱の構築学的異常という病態を重視して姿勢異常の診断と治療を考えているように思われる.脳神経内科医と整形外科・脊椎外科医では,PD患者の姿勢異常を診るスタンスに大きなギャップを感じる.
以前からPD患者の脊椎手術は,合併症が多く,再手術率が高いなどの問題が指摘されて,外科的治療には消極的であった.一方,近年積極的に手術を行う施設もある.また,深部脳刺激療法を主とする電気刺激療法も技術面での進歩がみられ,薬物治療抵抗性である姿勢異常に対する治療オプションとしても注目される.しかし,これらの外科的治療の成否は,周術期はもちろん術後長期にわたる整形外科・脊椎外科,脳神経内科,脳神経外科およびリハビリテーションスタッフをはじめとした関連する各科と各部署によるチームによる密な診療協力体制が不可欠である.過去の本誌の「Parkinson病と脊椎」(2012年11月号)の特集から10年以上経過した今回,これらの問題についてそれぞれの領域のスペシャリストに新たな知見を加えて執筆していただいた.「PDと脊椎」にはまだまだ多くの課題と難題が残されているが,その解決には学際的な研究や診療連携が大変重要である.本特集が,脳神経内科・整形外科・脊椎外科および脳神経外科など関連する各科の異なる考え方や知識を新たに知る“異文化交流”の機会となり,相互の理解と協力を促すものになればと期待している.そして,今後の研究の発展,さらにPD患者の効果的な治療とケアの一助になることを願っている.
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