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頸椎症性脊髄症は脊椎脊髄疾患の中で最も多い疾患の1つである.歩行に支障をきたしているような中等症〜重症の頸椎症性脊髄症例においては,手術療法の適応であり,ガイドラインにも多くの記載がある.しかし,軽症の頸椎症性脊髄症(手のしびれ感と巧緻運動障害のみで,下肢症状を欠く例:JOAスコアで約13点以上)の治療戦略についての十分なエビデンスは確立されていない.脳神経内科でみる頸椎症性脊髄症は大半がこの軽症例であり,頸部の安静指導を中心とする保存的治療で経過をみていることがほとんどである.一方,軽症例でも積極的に手術を施行する考え方もある.治療成績や予後を考える場合,頸椎症性脊髄症の自然経過や予後予測因子についての知見が重要であり,さらに治療効果を判定する指標を何にするかも治療成績に影響する.そこで原点に帰って,軽症頸椎症性脊髄症の自然経過からみた予後の考え方や,予後予測因子の最新知見などを整理して,保存的経過観察と積極的手術治療のそれぞれの立場から議論をして,治療戦略について考察したいと思い,本特集を企画した.さらに今後の課題として,無症候性の脊髄圧迫例をどうするのか,治療成績を評価する場合の指標として何が適切なのかについても,あわせて議論してもらった.
若手の先生方は,エビデンスを金科玉条としているきらいがあるが,ベテランの先生方の論文からは,1人ひとりの患者さんに寄り添って,その個々の背景(ナラティブ)を鑑みて,十分話し合ったうえで治療方針を決定し,その後も長期の経過追跡をされていることがわかる.この「ナラティブ」をも重視した真摯な診療姿勢と,長年の経験から得られた知恵(叡智といってもよい)は,大変心に響くものがある.昨今では,治療方針を決めるにあたり,shared decision making(SDM:共同意思決定)が強く推奨されている.この中で「エビデンス」は,SDMの過程で提示して共有する情報という位置づけになろうかと思われる.本特集では,現時点での最新の「エビデンス」情報とベテランの先生の「ナラティブ」に基づく叡智が,バランスよくまとめられ,また今後の課題や問題点がより明確にされている.あらゆる層の読者の皆さんにとって,明日からの診療や研究に大変役立つ内容になっているものと確信している.

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