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脊椎・脊髄疾患の診断では,MRIを中心とする画像診断の役割が多くを占めるようになっているが,その画像所見の背景になっている病理形態学的変化の理解が,診断から適切な治療選択,予後の推測までにおいて重要である.画像を「読影」すると表現されるように,「影」を「読む」というパターン認識的な診断ではなく,「影」のもとになっている本体,すなわち病態や病理学的変化を「読む」という一歩進んだ診断が実は求められる.
「病(やまい)」の「理(ことわり)」を主に形態学から研究する「病理学」は,日常の忙しい臨床場面では,思考の隅に追いやられがちであるかもしれない.しかし,診断や治療を進めるうえでは,もう一度基礎医学の原点に立ち返り,「病」の「理」を理解することが重要である.そこで,画像所見に直接反映される脊髄の肉眼的形態変化やMRIでの髄内信号変化に反映される肉眼的および組織学的病理所見を,じっくり観察してもらう機会をつくりたいと企画した.本特集では,画像診断の場面や脊髄障害の病態理解に,脊髄病理が重要と思われる代表的疾患を取り上げて,実際の剖検例の脊髄病理標本を多く提示していただいた.それぞれの疾患の臨床病理に造詣の深い先生方,さらに生前の患者さんの実際の診療にあたっておられた先生方に執筆をお願いし,臨床的関連を重視しながら病理所見や病態生理を解説していただいた.各疾患の大変貴重かつきれいなカラー標本の提示により,さながら「カラーアトラス」といってよい体裁となっている.各疾患における脊髄の形態変化から病理・病態の本質までを,視覚的に非常によく理解できるのではないかと自負している.本特集を通して,画像を読影する「眼」が進化し,新たな視点からのより深い診断が可能となり,さらに病理・病態の理解により,適切な治療選択や正確な予後予測に資するものと期待している.本誌の過去の連載から生まれた大著,橋詰良夫・吉田眞理著『脊髄病理学』(三輪書店)もぜひ一緒に参照していただきたい.
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