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現時点では,COVID-19が世界で猛威を振るっており,被害拡大の勢いは衰えておりません.このような状況で脊椎脊髄研究について私見を述べることは少し見当外れではありますが,このような状況だからこそ考えることもあり,筆をとらせていただいています.
COVID-19の感染力や致命率の高さから,世界はこのウイルスに対するワクチンおよび抗ウイルス薬の開発に注力しています.今後,基礎および臨床研究分野では,これまでのがんや再生などの研究から,感染症研究に大きくシフトし,さらに大きな投資が行われることになるかもしれません.脊椎脊髄外科医の任務の多くは,患者さんのADLやQOLを向上させて健康寿命を延ばし,健やかに老いていただくことです.われわれの基礎および臨床研究はこれまで多くの研究費から支援を受けてきましたが,そもそも平均寿命が脅かされている現状では,これらの流れは当然とも思います.山中伸弥教授がiPS細胞を発明されてから,再生医学への夢は広がり,脊椎脊髄分野でもたくさんの基礎および臨床における再生医療研究が行われてきました.私が椎間板の研究を開始したのは2002年からで,その頃にはまだiPS細胞は存在しませんでしたが,すでに再生医療研究は大きな進歩を遂げていました.椎間板再生への期待も大きく,私も髄核細胞の分子マーカーの研究を,ラットを用いて行っていました.その中で髄核の特異的分子マーカーとしてCD24という分子を見出したのですが,そもそもCD24はB細胞の分子マーカーであり,その意義についてはよくわからず,今でもまだわかっておりません.マウスやラットなどのげっ歯類の髄核や,髄核の前身である脊索でのCD24の発現は非常に特異的であるにもかかわらず,腰椎椎間板ヘルニアや思春期特発性側弯症の前方固定などで採取されるヒト髄核においては,その発現はほとんど認められず,当時大変がっかりしたことを覚えています.この発現の違いは,種の違いによるものなのか,そもそも手術を受ける年齢のヒト髄核には脊索由来の細胞が少なくなっているからなのか,どちらかが考えられました.脊索由来のヒト脊索腫にはCD24の発現がきわめて高いことから,理由としてはおそらく後者のほうであろうと考えました.結局のところ,CD24を用いて椎間板再生研究が大きく展開されたわけではありませんが,この研究は,椎間板という組織は若年からすでに老化が始まっているということを,私にとって強く再認識させるものとなりました.
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