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脊椎脊髄疾患の主症状となる運動感覚障害・痛みは,心因性の病態,すなわち転換性障害/機能性神経障害(ヒステリー)でもしばしばみられるものである.それへの対応は,脊椎脊髄外科・脳神経内科共通の大きなテーマとなる.2006年に本誌で「器質性疾患と心因性疾患との鑑別診断」という特集が組まれたのは,私の知る限り,精神科領域も含む日本の医学雑誌で最初のヒステリーをテーマとした企画である.それが脊椎脊髄を主テーマとする本誌で組まれたという事実は,この領域でいかに多くの医療者がこのような患者への対処に困っていたかを示すものであり,興味深い.それから14年が経ち,日本神経学会でもヒステリーをテーマとする教育コースが再三もたれるなど,ヒステリーへの認知が日本でもようやく高まってきたと感じられる.この間の大きな動きとして,「精神障害の診断と統計マニュアル」(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders:DSM)の最新版DSM-5が2013年に発表されたことが挙げられる.分類名や訳語が変わるのはいつものことだが,注目すべきこととして,変換症/転換性障害の診断に,心理的要因の特定が不要となり,代わりに,神経学的に説明できない症候,すなわち陽性徴候の存在が必須となったことが挙げられる.これは,ヒステリーの診断は精神科医が行うのではなく,脳神経内科医の手に委ねられたことを意味するもので,脳神経内科医が脊椎脊髄外科医からのコンサルトに応えられるだけの力量をもつことが急務となった.
本特集では,各界のエキスパートに,ヒステリーの概念,症候と鑑別診断,治療とリハビリテーションまで論じていただいた.多くの症例を提示されるなど,それぞれの方が,拠り所となる定説・論文も少ない中,ヒステリー患者の診療に真摯に取り組んでおられるご様子がうかがえる.この特集こそが,日本のヒステリー(転換性障害/機能性神経障害)診療の新たなバイブルとなることを信じている.
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