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個人的な話で申し訳ありませんが,たまたま2人の著名な脳神経外科医が身近にいた影響もあって,高校生時代から中枢神経系の精緻なシステムや神秘性に強い興味を抱き,ブルーバックスなどの書籍を読み漁っていた私は,1997年に医学部を卒業し,故小野啓郎先生や米延策雄先生に憧れ,脊椎脊髄外科医を目指して母校の整形外科学教室に入局しました.
脊椎脊髄外科医の最初の一歩として,卒後3年目にLove法の手術を執刀させていただきましたが,脊柱管内に向かってノミやエアドリルを進めるのがとにかく怖くてしかたがなかったことを今も鮮明に覚えています.そして,白く輝く硬膜管が見えただけで,何か触れてはいけないものを見てしまったような気持ちになり,自分の手の動きが止まってしまったことも忘れられません.一方,脊椎脊髄病学の研究に関しては,卒後4年目に当時日本に導入されて間もなかったMED法とLove法の同一術者による手術成績の比較検討から第一歩を踏み出しました.その後,多くの素晴らしい指導医の先生方や優秀な後輩たちに恵まれたおかげで,脊椎脊髄外科医としての貴重な臨床経験を積み重ねながら,圧迫性頸髄症術後の上肢麻痺,圧迫性頸髄症に対する前方固定術と椎弓形成術の長期成績の比較検討,頸椎後方手術後の軸性疼痛対策,脊髄慢性圧迫下での前角細胞や希突起膠細胞のアポトーシスを予防するサイトカイン,脊椎の非侵襲的生体内3次元運動解析とそれに基づく脊椎変性疾患の病因病態の解明,特発性側弯症の3次元的変形パターン解析とそれに基づく術式の工夫,PLIF後の固定隣接椎間変性,PLIFにおけるcortical bone trajectory screw法とtraditional trajectory screw法の比較検討などの研究を10年以上にわたって続けてきました.しかし,その中で,脊椎や神経系など脊椎脊髄外科医の治療対象のみに目を向けた自分自身の研究に徐々に限界を感じ始めていました.医学が進歩するにつれて医療の専門細分化が進んでいきますが,木を見て森を見ずといった傾向がどの医療分野でも強まっています.そんな時代であるからこそ,もっと広い視野をもって患者全体から脊椎脊髄病を見つめる必要もあるのではないかという思いがむくむくと私の中で大きくなっていきました.
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