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はじめに
頸椎椎間板ヘルニアや頸椎症性脊髄症,神経根症に対する手術術式として1958年にSmith,Robinson19,20)が報告して以来,約60年にわたって頸椎前方除圧固定術が広く行われてきた.頸椎前方除圧固定術は罹患椎間での神経圧迫を取り除き,障害部位を固定することで神経症状の改善が見込まれ,特に前方からの神経圧迫病変の治療に優れる.椎弓形成術が日本で開発された経緯もあり,頸椎変性疾患に対して,本邦では後方手術が選択されることが多いが,欧米では依然として前方手術が行われることが多い.頸椎前方除圧固定術は頸椎変性疾患に対して安定した手術成績をもたらし,また1990年代以降,頸椎プレートやケージなどの開発により,再建トラブルや移植骨採取に伴う合併症も減少し,さらなる発展を遂げてきた.
一方で,頸椎前方除圧固定術は,椎間本来の可動性をなくすことに加え,固定隣接部の負担を増大させ得るという問題を有する.過去の研究では,頸椎固定術後の隣接椎間では可動性が増し4,21),負荷,椎間板の圧が増大する17)ことが知られている.Babaら2)は頸椎前方除圧固定術後8.5年の経過観察で25%の症例で隣接椎間の狭窄が生じることを報告しており,Hilibrandら9)は前方固定術後10年間で25.6%の症例に有症状の隣接椎間障害が生じることを報告している.これらの椎間変性は自然経過で生じる可能性も考えられるが,Matsumotoら13)はMRIを用いた10年間の前向き研究で,頸椎前方除圧固定術後の隣接椎間の変性が健常者と比べて進行しやすいことを報告している.
人工椎間板置換術(total disc replacement:TDR)は,椎間板を摘出した後に可動性を有するインプラントを設置する手術手技である.すなわち,神経組織への圧迫を取り除く操作は従来通りに行うが,固定はせずに椎間の可動性を保持することによって隣接部での障害の発生を防ぐという目的で開発された.Motion preservationを基本とした人工関節手術は股関節,膝関節領域において,長年にわたって安定した成績を示している.頸椎においてもこのコンセプトが導入され,欧州では1980年代にプロトタイプが開発され,主に1990年代から臨床使用が行われるようになり,米国では2007年に頸椎人工椎間板が食品医薬品局(FDA)に承認された1).現在,英国,フランス,ドイツ,イタリア含め欧州で20カ国以上,アジアでは韓国,中国,台湾,香港,インド,シンガポール,マレーシアなどでTDRが認可されている.本邦では2017年に医薬品医療機器総合機構(PMDA)に承認され,臨床使用が可能となった.
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