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はじめに
脊柱変形矯正手術の最も危惧すべき合併症の1つとして神経合併症がある.その頻度は,一般の脊椎手術がおよそ1%1)であるのに対し,成人を対象とした矯正手術では9〜17.3%と高率である3).われわれの施設で行った成人脊柱変形手術の周術期合併症調査では,一過性の運動感覚障害を含めると12.8%の神経合併症を認め,3-column osteotomy(3CO;pedicle subtraction osteotomy:PSO,vertebral column resection:VCR)など高度の後弯矯正が神経障害のリスクであった11).日本脊椎脊髄病学会脊髄モニタリングワーキンググループでは,脊柱変形矯正手術273例中3例(1.1%)の永続性麻痺を山田らが報告している10).したがって,神経障害予防は変形矯正手術の最も重要な課題の1つである.
高リスク脊髄手術において,神経障害の予測には術中脊髄モニタリング(intraoperative neuromonitoring:IONM)が効果的であることはよく知られている.しかし,患者にとって最も大切なことは神経障害の予測ではなく,防ぎ得る麻痺を未然に予防することである.髄内腫瘍や胸椎後縦靭帯骨化症でも同じことがいえるが,脊髄モニタリングに変化が生じた時点で適切な対応(intervention)を加え,麻痺を防ぐ(rescue)ことこそ術中脊髄モニタリングの意義である.
運動系モニタリングの1つとして経頭蓋電気刺激筋誘発電位〔Br(E)-MsEP〕が大多数の施設で行われている.日本脊椎脊髄病学会の脊髄モニタリングワーキンググループの調査によると,運動路モニタリングを実施している施設の中ではBr(E)-MsEPは100%,経頭蓋電気刺激脊髄誘発電位〔Br(E)-SCEP〕は21%の施設で施行されている7).また,近年われわれがモニタリングワーキンググループで行った高リスク脊椎手術2,867例の調査では,Br(E)-MsEPの感度,特異度は,93.3%,91.0%であった.一方で,Br(E)-MsEPはその高感度ゆえに偽陽性(false positive:FP)が高いのがその欠点でもある.
本稿では,脊柱変形矯正手術におけるBr(E)-MsEPの効用と限界,特にモニタリング波形に有意な変化(alarm)が生じた際の実際の対応について,多くの実経験に基づいた解釈を述べるとともに,FPに対する最近の知見について報告する.
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