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はじめに
わが国の脊椎手術は10年前と比較し格段の進歩を遂げている.しかし,現在でも疾患によっては決して少ないとはいえない患者が術後に麻痺を生じている(表1)7〜9).脊椎外科医にとって,この予期しない合併症は,手術を行ううえで絶対に回避しなければならない,あるいは回避したいと誰もが考えている.しかし,実際には麻酔下にこれを確認することは不可能であるため,古くから,wake upテスト,すなわち一時的に患者を覚醒させ手足の動きを目視し麻痺の有無を確認する方法が行われてきた.しかし,この方法では覚醒させたときに麻痺が確認されても,すでに神経損傷が生じた後であり,厳密には術中麻痺の予防法とはいえず,結果をみているに過ぎなかった.このため,1970年代より電気生理学的手法による術中脊髄機能モニタリングが開発されてきた.この電気生理学的手法によるモニタリングは日米ほぼ同時に開発が始まり,初めてリアルタイムに麻痺の出現の可能性を評価することを可能としたが,初期には感覚神経しか監視下に置くことができなかった.わが国では,術者である整形外科・脳神経外科の脊椎外科医が主としてその開発を担ってきたため,術中に術野から硬膜外電極を挿入する脊髄刺激-脊髄記録誘発電位が玉置・黒川・下地らにより開発された.一方,米国では,資格を有する検査技師が手術室で電極の設置をしていたため,電気生理学に詳しい神経内科医が体性感覚誘発電位を用いてモニタリングを開始していた.日米で始まったこれらいずれの方法も,後索を上行あるいは下行する感覚神経が主な伝導経路であったため,厳密には術後の感覚障害しか察知できず,運動路のモニターの開発が望まれてきた.しかし,実際にこれらの電位を用いてモニタリングを施行してきたわれわれの目からみると,日米で行われてきたこの2者は,脊髄全体に機械的損傷が生じるような場面では運動路を含めた障害を検知可能であることがわかり,十分とはいえないまでもその目的を達していたし,wake upテストの時代からは格段の進歩といえた.このような時代が長く続いたあと,1990年代になってtrain刺激が可能な刺激装置が開発され,経頭蓋電気刺激-筋記録誘発電位〔Br(E)-MsEP〕が臨床で使用されるようになった.本法は,何といっても待ち望まれた運動路のモニタリングが可能な手法であったため,現在まで急速な普及をみている.この過程で,片山らが研究してきた経頭蓋刺激-脊髄記録誘発電位〔Br(E)-SCEP,D-wave〕が記録されるようになり,もう1つの運動路のモニタリング法となった.現在では主としてこの4つの方法が術中脊髄機能モニタリングに使用されている(図1,2).また,この運動路モニタリングの普及の過程には,麻酔法の進歩も大きく寄与した.イソフルランやセボフルランなどの吸入麻酔薬はシナップスや神経筋接合部での減衰が大きく,筋弛緩剤を使用しなくとも記録には困難が伴っていた.しかし,静脈麻酔薬であるプロポフォールの登場により抑制が軽度となり,また,鎮痛剤がフェンタニルからレミフェンタニルとなってさらに経頭蓋電気刺激-筋記録誘発電位が安定して記録可能となった.本稿では,各種モニタリング法の利点,欠点を解説し,multimodal monitoringの実際にも触れたい.
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