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はじめに
いわゆるC5麻痺は,ほぼ一定の頻度で発生する代表的な頸椎手術後合併症であるが,根本的な発生メカニズムはいまだに明らかにはなっていない3,9,11,13,17〜20,23).われわれが857例の頸髄症手術例(前方除圧固定術424例,椎弓形成術345例,椎弓切除術88例)を後ろ向きに解析したところ,49例(5.7%)にC5麻痺が発生していた.麻痺の発生は術式に無関係で,麻痺の領域はC5〜C8髄節にわたり,C5髄節のみの障害は38.8%に過ぎず,うち26.3%が両側に発生していた.麻痺発生の危険因子は,高齢,広い除圧範囲,後縦靭帯骨化症(ossification of the posterior longitudinal ligament:OPLL)であり,全症例に共通していたことは,「慢性的に圧迫されていた頸髄を除圧したこと,そして,発生した麻痺は自然軽快傾向を示したこと」であった.すなわち,C5麻痺の発生メカニズムは,通常1本の神経根圧迫で生じる神経根障害による説明は困難であり,慢性的に圧迫されていた頸髄を除圧することによって生じた一過性の脊髄障害とすればすべての臨床的特徴が説明できると考えた9,11).脳や胸髄における研究では,持続圧迫によって阻血状態にある神経組織が急激に除圧されると,再灌流によってcytokineやfree radicalが局所に発生し,血管透過性を亢進させて,神経組織を含む周辺の組織障害を引き起こすことが臨床的・実験的に確かめられている4,5,8,14,24).われわれの想定した“一過性の頸髄障害”が,再灌流によって生じるとすれば,これらの過去の報告とも合致する.
われわれは,C5麻痺再灌流障害原因説に立脚して,その原因物質であるcytokineやfree radicalの放出を抑える薬剤を投与すればC5麻痺の発生を予防できるかもしれない,と考えた.Free radical発生を抑える薬剤として,すでにpolyethylene glycol-conjugated superoxide dismutase(PEG-SOD)1),U74006F(tirilazad mesylate),a 21-aminosteroid6),dimethylthiourea22)の有用性が動物実験によって確認されていたが,これらの薬剤は臨床薬として実用化されていなかったため,脊髄損傷急性期治療薬としての効果が立証された大量メチルプレドニゾロン療法(以下,MP)2)による予防対策を開始した.
本稿では,MPによるC5麻痺発生予防効果についての一研究結果を提示する.
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