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はじめに
筆者が脊椎外科トレーニングを開始した1980年代後半における本邦の腰椎固定術の主流は,腸骨移植単独の前方固定術,あるいは椎弓根スクリュー(PS)が普及していない時代の後方固定術であった.しかし,この頃,大阪大学整形外科の山本利美雄らは,すでにCloward法1)を実践されていた25).新潟大学脊椎グループも手探りでposterior lumbar interbody fusion(PLIF)を開始していたが,骨癒合率が低く,また術後くも膜炎などの合併症のため,通常手技には至らなかった.その後,PSが普及し,固定性の向上が確認できたため,徐々に通常手術となっていった.当時,後側方固定術か? PLIFか? という論争がたけなわであったため,腸骨移植およびPSを用いた後側方固定術後とPLIFを比較したところ,1椎間固定では67% vs 92%,2椎間固定では56% vs 100%と明らかにPLIFのほうが優っていた26).以降,後方法ではPLIFを腰椎除圧・固定術の第一選択とした.さらに,1993年に本邦に導入された椎体間ケージ(threaded cylinder case)を併用したところ,骨癒合率は飛躍的に向上した.椎間インプラントによる固定メカニズムを明らかにするための生体力学的実験を行い,その固定原理はBagbyの提唱したdistraction-compression mechanismによることを実証した7).すなわち椎間板腔に,より大きな移植骨およびインプラントを挿入することで,線維輪の緊張を生み出し,その反作用を挿入物への圧力とし,機能的脊柱単位〔隣接椎体と椎間板・椎間関節・靭帯群を総合した単位functional spinal unit(FSU)〕を安定化するものである.椎間インプラントの形状は改良されて変遷したが,あらゆる椎間インプラントにおいて,この固定原理は不変である.インストゥルメンテーションを用いたPLIF手技は概ね確立し,徐々に適応を拡大していった.成人期以降の脊柱後側弯症(adult spinal deformity:ASD)の主因は,腰仙椎での脊柱管狭窄症・椎間不安定性・変形なので,PLIFは有力な手技となることもわかった6).またこの頃,transforaminal lumbar interbody fusion(TLIF)が普及し始めた2).TLIFは片側椎間関節を温存しつつ除圧・固定が可能なので,われわれは矯正を必要としない1〜2椎間病変に対する低侵襲手技〔minimally invasive surgery(MIS)-TLIF〕として適応を開始した3).一方,ASDに対する3椎間以上の除圧・矯正・固定術においては,主にL3/4,L4/5,L5/S椎間高位に,PLIF/TLIFを応用し始めた.PLIF/TLIFをL3以遠の椎間に実施する理由は以下の3点である.①ASD手術例の多くは特発性側弯症(胸腰椎カーブ)の遺残・進行型であり,主病変はL3およびL4傾斜・すべりに基づく変形であること20),②脊柱管狭窄は,L3/4,L4/5の中心性狭窄およびL5/Sの椎間孔狭窄が多いこと(図 1a),③健常日本人100名(男性46名,女性54名,平均年齢40.9歳,20〜70歳)におけるEOSによって計測した平均矢状面アライメントは,pelvic incidence(PI):50.6度,pelvic tilt(PT):10.6度,sacral slope(SS):40.0度,thoracic kyphosis(TK):42.4度,lumbar lordosis(LL):54.3,L3〜S1 LL:48.0度,L4〜S1 LL:37.7度,であり,L3〜S1およびL4〜S1が,それぞれLLの80%,70%を占める(図 1b)23).したがって,再建には同椎間で可能な限り前弯を形成する必要があること(図 1c),である.
2006年以降,筆者自身が執刀したPLIF/TLIFを基本とした手術症例のうち,2年以上の経過観察を実施した400例を調査した.年齢は平均61.5歳(15〜92歳),男性125例,女性275例,対象症例は,変性すべり症134例,椎間不安定性+脊柱管狭窄症94例,ASD 85例,分離すべり症29例,椎間板ヘルニア22例,ほか36例である.椎体間固定高位はL1/2〜L5/S,PLIF・TLIFによる固定椎間数は平均1.4椎間(1〜4椎間),主にL4/5であった.手術時間は,1椎間あたり平均113.6分(51〜202分),術中出血量は,1椎間あたり平均134.7g(9〜505g),ASD以外では輸血を要した例はなかった.Follow-up rateは99%で,腰下肢痛Visual Analogue Scale(VAS):平均(SD)は,術前59.7(30.1)から最終19.7(21.8)へと改善した.JOABPEQ平均(SD)は,術前:疼痛関連障害:40.0(29.2),腰椎機能障害:61.9(26.9),歩行機能障害:46.3(27.9),社会生活障害:50.3(20.4),心理障害:49.8(15.5)であったのに対し,最終調査時:疼痛関連障害:77.8(26.1),腰椎機能障害:78.0(22.3),歩行機能障害:77.0(24.9),社会生活障害:74.0(20.3),心理障害:61.5(18.1)へといずれも改善していた.Reconstruction CT(矢状面および冠状面)を用いて,①椎体間骨連続性あり,かつ,②インプラント周囲のlooseningなし,の条件(図 2)で判定した骨癒合率は,96.5%であった.周術期合併症は,神経根症の悪化7例(1.75%),硬膜外血腫3例(0.75%),PS逸脱3例(0.75%),創部感染1例(ASD)(0.25%),癒合不全14例(3.5%)を認めた.また,晩期合併症として,固定隣接椎間障害を高頻度に認め,36例(9%)において除圧術や固定延長を追加した.この原因は,椎間可動性を失うという椎間固定術の宿命的欠点に加えて,すでに破綻している脊柱アライメントに対して矯正せずに椎間固定を実施したこと,が主因と考えられる21).
以上の経験に基づいて,PLIF・TLIF成功のための基本的留意事項として以下の3点を強調したい.①骨性椎体終板を温存しつつ椎間板を搔爬し,十分な骨移植をすること,②固定原理(distraction-compression mechanism)7)を念頭に,椎間の初期固定性を確実に得ること,③合併症の回避,である.これらの点について以下の工夫を実施している.①移植骨は,腸骨海綿骨・局所切除骨チップ・高気孔率顆粒状人工骨を混ぜ,腸骨から採取した骨髄液を散布したものを使う.これを十分に椎間腔最前方に充塡し,後方に椎間スペーサーを打ち込む.スペーサーは1つとし,これを椎間板前方1/3くらいに横向きに設置して前弯をつけやすくする.さらに,スペーサーの後方には骨癒合促進と癒合状態のモニタリングのためにハイドロキシアパタイト+コラーゲンより成る人工骨を充塡する(図 3).②椎体間には,適切なサイズの椎間スペーサーをしっかりと設置し,PSで補強する.インプラント設置および術中アライメント確認のために,C-arm X線透視を必要最小限使用する.③神経障害回避の対策としては,術中神経機能モニタリング,特にfree running electromyography(EMG)が有用であり,全操作を通じて観察する18).さらに長期的視点に立てば,病変部(局所)ばかりでなく,立位における腰椎の生体力学的環境24),ヒト立位全身アライメント・バランス4)も念頭に置いた手術計画・手技・術後経過観察が必要と考える.立位矢状面アライメントはhealth-related QOL(HRQOL)に関与するからである16).
以下では,基本手技3)は省略し,症例を通じて,われわれの工夫,手技のうち大切と思われるポイントを記す.
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