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協働運動(synergy)を利用したヒステリー性麻痺の診断
これら3つの徴候はいずれも,協働運動を利用してヒステリー性麻痺を診断するための診察法であるので,同一項目で論じることとする.ちなみに,今日の分類では「ヒステリー」という用語はなくなり,各分類法によって異なる用語になっているが,筆者は「ヒステリー性」という言葉を使い続ける理由を別稿で説明しており15),本稿でもヒステリー性の用語で統一する.非器質性麻痺にはヒステリーのほかに詐病があるが,両者は神経徴候としては区別ができない.すなわち,意識の行うことと無意識の行うことは神経学的には区別はできないのである.
一般に,ある関節運動を行うときには,主働筋(agonist)以外にさまざまな協働筋(synergist)が共同して働いている.主働筋のもつ2つ以上の作用のうちの不必要な動きを防ぐのが協働筋の1つの重要な役割で,特に筋のもたらす作用の基礎を与えるように通常近位の関節を固定する筋をfixatorと呼ぶ5).たとえば,小指外転筋(ADM)は手根の豆状骨に起始し,小指基節骨底に停止する筋で,その収縮によって小指の中手指節(MP)関節部で小指を外転するが,その収縮は遠位で小指基節外側を近位に向かって引くと同時に,近位側では豆状骨を遠位に向かって引くことになる.この豆状骨が固定されていないと遠位側でADMは十分な筋力が発揮できない.このため,尺側手根屈筋(FCU)がsynergist(fixator)として収縮し,ADMの作用に拮抗して豆状骨を近位に向かって引っ張ることで固定する.ちなみに,これは,針筋電図検査でFCUを同定するために用いられる技術である.このように,主働筋・協働筋が一体となって遂行される運動の総体を,協働運動(synergy)と呼ぶ.
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