わたしの大切な作業・第73回
緊張をほぐす
岡野 八代
1
1同志社大学
pp.365
発行日 2024年5月15日
Published Date 2024/5/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.5001203757
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現在の研究にわたしを導いてくれたのは、人間の活動的生活を労働、仕事、行為に分け、それぞれの活動が人間存在のいかなる条件に対応しているかを論じた政治思想家、ハンナ・アーレントの研究でした。
研究者としての生活は、アーレントの分類によれば活動というよりむしろ、物事をひとり静かに考える観想的生活なのかもしれません。ただ、大学教員としてわたしは労働者でもあり、社会に生きる一市民としては、他者との交流のなかで意見を交わし、時に街頭でもマイクを握る行為者です。そして、研究に基づき論文を執筆する、また今こうしてパソコンに向かい文章を書いているときは、仕事をしています。自分で言葉を選び、文章を綴ることは、わたし自身の手を離れ他者の手にわたるモノを制作することです。その意味でアーレントは仕事を「世界を構成する事物」の創作と考えました。
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